くまにおねしょを見られたら

毎日ベッドにおしっこの失敗。
お尻がじゅわんとしたらもう駄目なの。
パジャマに温かいおしっこが広がって。
それから何時間かしたらお尻に痛いおしおき。
それでも毎日おしっこの失敗。

今日はいつもと違ってた。
くまさんのぬいぐるみにぴしゃんぴしゃん。
とうとうお尻を叩かれて。
くまさんは言ったの。
「もう一緒に寝てあげません」


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悪魔払い師の孫 悪魔のお仕置き

 夏にはまだ少し早い日の夜だった。
 シトラスはふと、眠りから醒めベッドの上から起き上がった。
 普段は朝までぐっすり眠っているのでこれは珍しい事だ。
 もう一度眠りにつこうとした彼女は、その前にトイレに行っておこうとベッドから出た。
 生意気な顔立ちをしているけれどまだ10歳にもならない幼い彼女の髪が暗がりの中でぼんやり光る。灯りは要らない。
 何故ならシトラスは父親が悪魔の、人間とのハーフだからである。
 そのせいでとても夜目が利く。
 それでも最近は廊下に間接照明が灯るようになった。
 悪魔と悪魔のハーフしかいなかったこの家に人間の男の子がやって来たからだ。
 それでこの家のルールは少しだけ人間寄りになった。
 ほどなくしてシトラスは自分が目を醒した理由を知る。
 奥の部屋から灯りが漏れ、誰かの話す声がするのが聴こえて来たからだ。
 彼女は取り敢えずトイレに行くのを後回しにして置くの部屋へと忍び寄って行った。
 そこは確か悪魔である父親の部屋であるはずだ。
 その部屋で一体何が?
 好奇心を刺激された彼女だが徐々に聴こえて来る声と音で事態を察することが出来た。
 聞き覚えのある、尻を叩く音と父親の説教。そしてすすり泣き。
 でも、そのお仕置きの常連である自分はここにいる。
 ごくっとシトラスの喉が鳴った。
 だったら今部屋の中でお尻を叩かれているのはあの子しかいない。
 父親が引き取る事になった人間の男の子、スニヤ。
 だがスニヤはきかん気の強いやんちゃなシトラスと違って真面目で大人しくて滅多には叱られる事のない男の子だ。それがどうして?シトラスはそっと部屋に近寄って耳をそばだてた。
「夜更かしは駄目だって何度も注意したよな?」
 ドア越しに父親の滅多にない尖った声が響く。
 悪魔とは言うが父親のハビエルは相当に甘い父親で滅多に子供達を叱る事もなければ声を荒げる事もない。その父親が一度叱るとなると、それはもう厳しく、シトラスでも何も言い返す事が出来なかった。
 部屋の中からは返事の代わりに鼻をすすり上げる音とくぐもった言葉にならない声が聴こえる。
 多分スニヤは泣くのと悲鳴を上げるのを耐えているのだろう。
「それなのに隠れて夜中に!」
 ハビエルの声に続いて、ばしん、という音が聴こえ、シトラスは思わず自分のお尻を庇い足の指を折り曲げた。我知らず、肩がびくんと跳ねる。ズボン越しのようだが明らかにお尻を叩かれている・・・・・・ スニヤと違って何度もお尻にお仕置きをされた事のあるシトラスはその時の痛みが蘇って頬が熱くなった。父親がくれる平手は本当に痛い。まだ床に水たまりを作った事はないがシトラスは何度もその痛さでおしっこをちびってしまい、下着を汚している。スカートの上から叩かれる時はバレずに済んでいるが、お尻を半分出された状態でのお仕置きでは見逃してもらえる筈もない。いつも生意気な態度を取るくせに、とついでに罵られてしまうので本当に恥ずかしいし屈辱的だ。
「池に落ちただと?!」
 シトラスは、その言葉で父親が何故スニヤに腹を立てているか判った。
 このところ、彼は一冊の本に夢中で何度言っても夜更かしをしてまで読みふけっていて、そのせいで昼にぼんやりする事が多くなったのだ。授業には影響していないようだが何でもないところで転んだり家の中で壁にぶつかったりと少々危ないと思った矢先に今日は池に落ちた。
「もしも誰かが通りかからなかったらどうなってたと思うんだ!」
 ばん!ばん!ばん!
 続けざまにはたかれ、さすがのスニヤもうめき声を上げながら仰け反る。
 これ以上は・・・・・・・と、シトラスはそっとその場を離れるとトイレに入り、自室に戻り再びの眠りについた。
 明日はそっとスニヤを慰める事にしよう。
 
 
 スニヤはベッドに腰掛けたハビエルの膝の上に尻を乗せられたまま、顔の前にある枕を両手で掴み痛みに耐えていた。
 悪いのは自分なので泣き喚くのは違うと想っていたし、簡単に謝っては痛みに堪え難いだけのことだと思われるのではと考えて口を開かぬようにと頑張っていた。
 それでもあまりの痛みにたまに声が漏れてしまう。
 そのせいでサビエルも止め時を見失ってはいた。
 スニヤの指が枕に深い皺を作るのが目に入り、一旦落ち着こうと一度振り上げた手を下ろす。
 膝に乗せた腹と、幼いせいでまだ薄い肩が大きく上下していた。
 その肩の動きが静かになった頃。
「・・・・・・サビエル・・・・・」
 膝の上から弱々しい声がした。
「・・・・・本当にごめんなさい・・・・」
 泣くのを堪えているせいで言葉は途切れ途切れだ。
 サビエルはまだ腹を立てていたが、その言葉で苛立ちがすうっと引いて行くのを感じた。
「うん」
と言うとうつ伏せになったままのスニヤの体を起こし、鼻にティッシュを当てがうとちんとさせる。
 泣くのを我慢しているせいで鼻水が詰まって窒息寸前だ。
「そりゃあ俺はスニヤが読書に夢中なのはいいと思うよ。
でもまだ子供なんだし睡眠はちゃんと取らなきゃ駄目だ。
だから本は寝る前に預けて行きなさい」
「え・・・・・・」
 スニヤは承服し兼ねるように言い淀んだが強く睨まれてはい、と言った。
「じゃあ、さっそく本を取りに行かなくてはね」
 サビエルはそう言うと、スニヤを抱きかかえ彼の寝室へと向かった。



 青空にしゃぼんが舞う。
「おねしょはシトラスだけだと思ったのに」
 サビエルはぼやきながら汗まみれになってシーツと格闘している。
「なんだ、どうしたんだ?」
 遊びに来た友人のリリスがその顔を上から覗き込む。
「あの人間の子は怖い映画でも見たのか?」
「いいや」
 サビエルはシーツをぎゅーっと絞るとっち上がり、青空の下に大きく拡げ、ぱんっと張って笑った。
「よ~~く眠っただけだよ。な?」
 その言葉に建物の影から様子を見ていたスニヤが一瞬体をを引っ込めたがすぐに顔を赤くして姿を現した。
 サビエルはにやにやしながら洗濯物の入ったたらいを抱え、スニヤの脇を通り過ぎると、その髪をくしゃっと撫でて言った。
「睡眠は大事だろう?」
 本をしぶしぶ預け、しばらくはまだ鼻をすすっていたものの、日頃の寝不足による強い睡魔に身を任せ、久々にすっきりした目覚めを迎えたスニヤはそれと同時におねしょをしてしまうという大惨事に見舞われた。下着と服はどうにかしたものの寝具はどうにもならず、大泣きしながらサビエルの部屋にやって来たのをなだめるのも大変だったが、これで身をもって判ってくれただろう、と悪魔のお父さんは思うのだ。
 それにしても彼の久し振りの粗相は派手だった。
 多分一度ではなくニ度か三度してしまったのだろう。それでも起きなかったくらい彼は眠たかったのだ。今朝方のすっかり途方に暮れたスニヤの表情を思い出し、ふふっと笑うとよいしょっと言いながら小さな体を片手で抱き上げる。少し驚いて戸惑う顔に微笑むと
「シーツ干すの、手伝ってくれるよな?」
と問い掛けた。
「うん・・・・・」
 細い腕が首に巻き付いて来る。
 よしっと言うとサビエルはもう片方の腕にある、洗濯物の入ったたらいを抱え直し歩き出した。

寺の狐と天の邪鬼

町を一望出来る小高い丘の上にある、大きくはない小奇麗にされた寺の中に、夕方の訪れを知らせる風が吹き込む。座布団の上でまどろんでいた寺の主である狐は、ふさふさとした尻尾をゆっくりと振り、そろそろ目覚めねばなと薄く目を開けた。間もなく口うるさい弟子がやって来る時間だ。
 あと五分まどろんだら起き上がるとしようか。
 誰にともなくそう思うと、狐のかりがねはもう一度瞼を閉じた。
 かりがねは別に本名ではない。
 口うるさくも賢い弟子がそう呼んでいるだけだ。
 そうやって心地よい瞬間に身を落とそうとした時、鋭い怒声が空気を切り裂いた。
 縁側の方からなにやらばたばたと音がする。
 かったるさを感じつつも、これはいよいよ目覚めなくてはいけないということに違いない、と観念し、かりがねは座布団の上で伸びをし、体をぶるっと震わせると立ち上がり人間の姿になった。どのみちぼやぼやしていたら弟子がやって来て座布団の上で眠っていた事に文句を言うのだ。弟子のくせに偉そうな口ぶりで毛が着くだろう、と。
 眉間に皺を寄せた端正な顔を思い浮かべながら、文句を付けられないよう衣類を整え、音のした部屋へ向かうと来客用の大きなちゃぶ台の傍らにへたり込んでいる天の邪鬼を見付けた。
 卓上にあったお菓子の入った容器は無様にひっくり返り、座布団も二、三枚めくれ返っている。
 おそらく怒声の主は弟子のもので、来るなり天の邪鬼たちの悪戯を見付け追い掛けて行ったのだろう。かりがねは、やれやれとため息を付くと赤い浴衣を身にまとった、首謀者であろう天の邪鬼の小柄な体を小脇に抱え大きな音を立てて大股で廊下を渡り、自分の部屋の中にその小さくて軽い体を投げ入れた。
「またお前か」
 そう言うと文机の上に上半身を乗せると浴衣の裾を捲り上げ、天の邪鬼の尻を出す。
 その尻を叩こうと手を振り上げたかりがねだったが、その丸くて小さな尻を包んだ下着に丸い染みを見付け、手を振り下ろすのを思いとどまった。
 彼女は洩らしたのだ。
 だがその足元には水たまりはない。
 この部屋に来る前に下着を濡らしたんだな、とかりがねはそれまでの事を思いめぐらす。
 そう言えばいつもなら真っ先に逃げる彼女が犯行現場に残ったままだった。
 しかもかりがねに抱きかかえられても静かだった。
 恐らく弟子の声に驚いてしまったのだろう。
 彼女は弟子の事を知らない。
 出て来るならかりがねだろうと思ったから見知らぬ男に怒鳴られて怖い想いをしたのかもしれない。
 かりがねはどうしようかと濡れた下着を見詰め、手を振り上げたままでいた。
 天の邪鬼は気が強くてプライドが高い。
 濡れた下着のままでいさせるのは気が進まないがどう指摘するべきか・・・・・
 迷っているといつまでもかりがねが手を振り下ろさない事を不思議に思った天の邪鬼が振り向いた。
 そして、かりがねがこちらを凝視していることに気付いた彼女はその視線を追い・・・・・・・
(嘘でしょ?!)
 一瞬で顔色を失い、すぐに真っ赤になる。
 下着が濡れている。
 それもかなり派手に。
 肩越しに部屋を見ると開いた障子の向こうにまでてんてんと続く小さな水の跡が見える。
(嘘・・・・・・)
 天の邪鬼は動揺して震えた。
 盗み食いや小さないたずらなら軽くお尻を叩かれて終わりだ。
 その後は軽く文句を言われるか、ぽんと外に放り出されるか、天の邪鬼の方が憎まれ口を叩きながら外に飛び出すか。いつもその繰り返しだ。
 でも、これはどうなるんだろう。
 どんなにきつく怒られるか。
 怒られるくらいならいいが、もうここに来る事は出来ないかもしれない。
 天の邪鬼の視界が揺れた。
 目の中に涙が溜まるのが判った。
 股間が一瞬熱くなる。
(また出ちゃう!)
 駄目よ、と天の邪鬼はキツく内股を閉じた。
 ちょっとだけお尻の周りが温かい物で包まれたが床に溢れるのは免れたようだ。
 天の邪鬼はこれ以上油断しないよう、頬を熱くして耐えた。
 その時、今まで振り上げられたままだったかりがねの手がふわりと天の邪鬼の頭の上に乗せられた。あいつ、怖かったか?と優しい声が耳に届く。
 その途端、天の邪鬼の瞳から大きな涙が溺れ、彼女はたまらなくなって大きな声で泣き出した。


 ざっとシャワーからお湯を出すと泣きじゃくる天の邪鬼の体を濡らす。
 髪の先からつま先までを丁寧に洗い、石けんの泡を全て流し終わっても彼女はまだ泣いていた。
 さすがに号泣は止み、すすり泣きに変わってはいたがせっかく奇麗にしたのに顔が涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。
「ほら」
 かりがねはティッシュを彼女の鼻にあてがう。
 天の邪鬼は器用にも泣きながら鼻を擤んだ。
「今、弟子が服を買いに行っているから。あと、叱っておいたからな」
 そう言うとかりがねは一枚の布を器用に天の邪鬼の体に巻き付け、ワンピースのようにした。
 買いに行くって・・・・・・
 叱るって・・・・・
 天の邪鬼は、すん、と鼻をすすり上げるとまた真っ赤になった。
 何があったか判っちゃうじゃない・・・・・
 少しだけむくれているとはいっとバケツと雑巾を渡される。
「奇麗にしておけ」
 そう言うとかりがねは廊下に出来た水たまりの跡を指す。
 折れた心でもたもたと自分の汚した跡を拭いていると、客室の畳をざっと拭き上げ大きな染みの出来た座布団を抱えたかりがねが足早に浴室に戻るのが見えた。
 慌てて残りの汚れを拭き取り、追い掛けると浴室ではたらいに張った湯の中で座布団と浴衣と下着をざぶざぶと洗う姿が見える。
 天の邪鬼は奇麗にしてもらったのにかりがねはお湯はかぶるわ汗まみれだわ、さっぱりなんてしてない。たらいのお湯も、すぐに黄色く汚れて行く。
「・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」
 掠れるような声しか出せず、天の邪鬼は己を憎んだ。
「気にするな」
 何度かお湯を張り替えた後、踏み洗いに切り替えながらかりがねは言った。
 お湯と運動のせいで頬が染まっている。
 そう言われても脳裏には座布団に出来た染みがこびりついて何度も蘇る。
 ちょっと下着を濡らした程度のおもらしだと思っていたのに布団に出来た染みは大きく、しかもその染みは畳にまでくっきり残っていた。
 それどころか浴室に向かうまでに座布団からは滴がぽたぽたと派手な音を立ててしたたっていた。
 また汚れるぞ、とかりがねにどやされたが天の邪鬼は畳に出来た染みを必死になって拭いた。
 お酢が良いぞ、と観念したかりがねが容器を渡す。
 臭いは確かに落ちた気がするが染みは余計に広がった気がする。
 玄関で遅くなった、という声がした。
 帰って来たな、と言うとかりがねは額に出来た汗を裾で拭い、
「いいか?着替えたらその表情はもうおしまい。
いいな?」
 そう言うと天の邪鬼の背中を叩き、玄関に向かった。



 弟子だと言う青年が天の邪鬼に買って来てくれたのは彼女が一度も着た事はないような洋装で、着替え終わった彼女をとてもどきどきさせた。
 かりがねは、着替え終わってもじもじしながら出て来た彼女に似合うよ、と微笑んだ。
 手招きをすると、文机を指す。  
 そうだった。
 天の邪鬼はうなだれ、言われた通りに文机に上半身を投げ出し、お尻が突き出るようにした。
 その途端、彼女は自分が尿意を抱いていた事を思い出した。
 かがんだ為事と文机の縁がお腹に当たったせいだ。
 ・・・・・・どうしよう・・・・・・
 俯く頬に冷や汗が一筋伝う。
 でも、今からトイレに行きたいなんて言ったら逃げると思われるかもしれない。
 かりがねのおしおきはしつこくないからそれくらいなら耐えられるかもしれない。
 ぐるぐる廻る頭で考えていると、くすくす笑う声がして先に用を足して来い、と言われる。
 真っ赤になりながら首を振ると
「知りませんよ?」
 と、かりがねとは違う声がやはり笑いながら言い、天の邪鬼の目の前に携帯電話のモニターが差し出された。
 それはお尻を左右にもじもじと揺らし、脚を交差させ、両の足の指先をこすり合わせる己の姿の動画。
 明らかに限界が来ている動きだ。
「気が付いてないと思いますけど、あなた何度も前を押さえてます・・・・」
「え・・・・・・」
 そう言われた途端、背中にぞくっとした物が走るのを感じ、天の邪鬼は肩を振るわせた。
(出ちゃう・・・・・)
 さっきまで膀胱で留まってくれていたものが一気に入り口に向かって走り出そうとしているのが判る。
 天の邪鬼は文机から体を離し、うずくまった。
「あなたが大丈夫だと言うなら構いませんけど、僕はこのまま撮り続けますからね。
何が映るかなあ・・・・・?」
 声は優しいくせに意地の悪い言い方だ。
 天の邪鬼は刺激を与えない程度に勢い良く立ち上がると、言って来ます!と叫んで足早にトイレに向かった。
「お前、本当に性格悪いな」 
 かりがねはふふふと笑いながらその姿を見送る弟子にほとほと呆れながらぼやいた。
「何言ってるんだ、ちゃんとトイレに行かせたじゃないか。
あのまま彼女の意見を聞き入れても僕としては・・・・」
「・・・・・・今度はお前に全部片付けさせる!」
「間に合わなかったらね」
 大丈夫みたいだよ、と弟子は言いながら体を後ろに反らせた。
 



 ぱん、ぱん、ぱん、と軽く尻を叩かれ、つまみ食いはするな、と睨まれながら天の邪鬼は下着を履き直し、スカートの裾を直して立ち上がった。
「服は乾かしておくからいつでも取りにおいで」
 弟子がにこにこと言う。
 最初に見た怖い表情なんか嘘のような優しい笑顔だ。
 それでも、気を付けていないとまた漏らしてしまいそうなほどの恐怖心がこびりついている。
 天の邪鬼は股に力を込め、せっかく買って貰った新しい下着を汚してしまわないよう耐えた。
 その代わり、喉がごくっと鳴った。
 それは彼にも聴こえたらしい。
 微笑んだまま振り返ると彼は言った。
「それとも着替え用に置いておく?」
 

ぽん!

台所を片付ける皇子のつやつやの、襟足より少し長めの黒髪がリズミカルに踊る。
 彼の黒髪は見た目は柔らかそうなのだが少し硬めなせいで、始終どこかで毛先が踊るのだ。
 海軍の大艦隊艦長は、襟元を緩めながらその動きを見ていた。
 幼い頃から皇子というだけで命を狙われたりもした彼だが、素直にすくすくと育っている。
 同じ年頃の青年からするとやや小柄でまだ少年という感じも否めないが健やかなのだからそれもよしだ。
 その横で背の高い、海洋という細身だががっしりした身体付きの、ウェーブの掛かった長い黒髪の青年が優しげな目付きで少し体を屈め、皇子に何か指示をしている。
 皇子はそんな海洋に素直に頷いていた。
 海洋は何を隠そう、皇子の生命を狙っている一人だ。
 一度邪魔が入り、しかもその後その依頼は消えたのに任務を完了出来なかった事を悔しがった彼は今後も皇子の命を狙う事を宣言し出した。そして呆れた事に「他の奴に皇子を渡したくない」という理由で毎日と言ってもいいほどの間隔で皇子に会いに来ていた。
 皇子は別のマンションに最近居を構えたのだが、海洋たちのせいで部屋が壊れてしまい、一時期的に艦長の元へ身を寄せていた。
 皇子も海洋も大変器用な方であっという間に贅沢ではないが豪華な食事が並ぶ。
 そこへ、足を引きずるような足音がして、塔という青年が現れた。
 皇子よりはいくつか年上だったがまだ未成年で、細いというよりはかなり痩せぎすな目付きもあまり良くない灰色の髪を持つこの青年もまた、皇子の命を狙っていたものだ。
 任務に失敗し、艦長に捉えられた時には指示を出したとされる彼の両親は姿を消し、未成年だった彼は艦長に引き取られる事になったのだが、この塔が一番の悩みの種だった。
 ややぼんやりしていて人が好いところがあるものの自分の事は自分でこなせる皇子は心配はすれこそ手は掛からない。
 海洋だって充分な大人だし、プロだからたまに冗談のキツい行動を起こす事はあっても艦長に迷惑を掛けた事はない。いくら皇子を狙って艦長の家に来ているとは言え、引くべき線はきっちりしているし信用も出来る。部下として使う事もあるくらいだしその際は非常に有能な働きを見せる男だ。
 それがこの塔と来たら口ばかり達者で自分の世話もままならない上に登校拒否に成り掛けるし誰にも心を開かないどころか会話もままならない。おはようも言わなければおやすみもなく、学校からの呼び出しなどしょっちゅうだ。
 たくさんの部下を掌握している彼にとっても塔は非常に扱い辛くままならない存在で頭痛の種でもあり、自信を喪失させる事でもあった。
 幸いにも海洋は同業者という立場を口実に力技で塔を押さえ込み怯まずに面倒を見てくれているので塔は学校には通えている。学校からの呼び出しにも進んで出向いてくれるのだから本当に有り難いものだが、そのせいで艦長は保護者としては全く無能な自分にげんなりしてしまうのだ。
 その問題の塔は、相変わらずおかえりもなくダイニングに入って来たのだが、いつものしかめっ面と違う苦痛に満ちた顔でゆっくりと歩くので艦長の目を引いた。
 どうしたんだ?と訊きたいのだが、まだ人間関係が出来ていないので気軽にそんな事も出来ない。艦長は手招きで海洋を呼んだ。
「ああ、さっき・・・・・」
 目配せだけで艦長の言いたい事を察した海洋は小声で事情を説明する。
 昨日、艦長にいつも力で押さえつけるという海洋のやり方を咎められた彼は、今朝は塔に「おしおき」をしてみることを試みた。だが精神的に弱い塔はたった二回尻を叩かれただけでパニックになり恥ずかしさで憤死し兼ねない勢いだったので海洋はこの手を使うのは止めようと考えたのだが
帰宅するなり仕返しを挑んで来たため、滅多になく逆上した海洋は止めようと決めていたのにも関わらず強引に尻を何度も引っぱたいてしまったのだ。
 塔はその痛みに耐えた。
 だがもう二度とこんなやり方はご免だと言い、 海洋も趣味じゃないと答え、仲直りをしたのだがその後の痛みには耐えられなかったようだ。
 一緒にいる時は泣かなかった塔だが、海洋が台所へと去った後泣いてしまったのだろう。
 こっそり目を見ると真っ赤になっていた。
 事の顛末を聞いて艦長は驚いたように海洋を見た。
 海洋はその艦長の前でうなだれ
「やりすぎました。ゴメンナサイ」
 と言った。
 見た目はしおらしいが上目遣いに見ているその目が本当にそう思っているのか・・・・・・
 普通の社会では生きて来なかった海洋と塔は叱られるのも叱るのも慣れてはいない。
 食うか食われるかの世界にいる者同士だ。
 そんな二人にこっちの価値観を判らせるのは時に骨が折れる。
 海洋は素直だからまだいいが、塔はそうではない。
 だが、本当に今社会での生き方を身につけなくてはいけないのは塔の方なので本当に悩ましい。
 艦長はひとつ、ため息を付くとまあいいさ、と言った。
「頼んだのはこっちなんだし」
「うん?」
 許され方も判らない殺し屋の青年はどうしたらいいのか判らないようで戸惑いの眼差しで艦長を見た。台所に戻って、と指で示すとすぐに戻る。
 その後ろで塔は座りずらそうに椅子に腰を下ろす。
 やりすぎた、というのは誇張ではなさそうだな、とその様子を眺めながら艦長は肩をすくめた。
 その向こうでは海洋が皇子に頭をこつんと叩かれていた。
 どうやら同じ話をしたようだ。
「今日はソファーでご飯を食べるか?」
 そっちの方がまだ楽じゃないかと提案してみる。
 塔はいい、と首を振った。
 返事があるのは初めてだ。
 思わずそっちを見ると目を潤ませ、時々鼻をすすっていた。
 まだ泣いている途中のようだ。
「無理はしないように」
 艦長はそれだけ言うと、新聞を拡げた。



 暗がりの中。
 幽霊が青白い顔でこちらを見ている。
 塔の顔から血の気が引き、気が付くと下半身に温もりが広がった。
 慌てて下を見るとシーツに丸い染みが出来ている。
 ズボンもびしょびしょだ。
(しまった・・・・・)
 もう泣きそうだ。
 動揺する塔の前で幽霊がにやっと笑った。



「・・・・・うわっ・・・・・・っ!!」
 塔は自分の叫び声で飛び起きた。
 肩で息をするとはっとして毛布を剥ぐ。
 ベッドもパジャマも濡れてはいなかった。
 ほっとして息を吐くとドアがノックされ、大丈夫か、という艦長の声がする。
 塔は慌ててベッドから出るとドアを開け、ちょっと怖い夢を見ただけと言った。
「そうか・・・・・ホットミルクを作ってあげるからこっちへおいで」
「?」
 何故ホットミルク?と塔は首を傾げる。
「ホットミルクを飲むと少し落ち着くんだ。まだ朝には早いからね」
 そういうと先に歩き出す。
 塔はしばらく部屋の前でぐずぐずしていたが、ええままよ、とその背中の後を追った。
「もし怖かったらここで寝てもいいからね」
 そう言いながら艦長はソファの前のテーブルに温めた牛乳を置く。
 塔は黙ってそれに口を付けた。
 相当な猫舌なので恐る恐るだ。
 艦長はその様子を眺めながら自分のカップに口を付けた。
「あの、俺・・・・・・・」
「ん?」
 艦長は塔を見た。
 彼はマグカップに視線を落としたまま口ごもると、
「ずっと人目を避けて暮らしてたから慣れないんだ。誰かといるとか、話すとか・・・・・・・・」
「うん・・・・・・」
 そうだな、と艦長は静かに相槌を打つ。
「・・・・・・誰かが近くにいるのは怖い・・・・・」
 吐き出す様に告げる。
 マグカップを包む両手が僅かに震えた。
「判った」
 艦長は視線を塔に向けたまま頷いた。
「今の君の生活については法律上の事だから仕方がない。でも、学校生活が無理なら家庭教師も考える」
 思いもがけない提案に、塔は戸惑いを覚えたように視線を彷徨わせた。
 この数週間の生活を思い返しているのか沈黙が続く。
「・・・・・学校は通う・・・・」
 彼の中でいくつかの葛藤があったようだが弱々しい答が返って来た。
「無理になったら言いなさい」
 艦長はそう言うと残りのミルクを飲み干し、ソファーに横たわり目を閉じた。
「ちょっと・・・・・・」
 置き去りにされた塔は少し慌てたが、諦めたようにため息をつくと自分も残りのミルクを飲み干し、マグカップを台所の流しに片付けると反対側のソファに身を横たえた。



「こーんなところで寝てるとおねしょしちゃうぞ!」
 頬をはたかれて目を覚ますと、朝陽の中で海洋が腰に手を当てて見下ろしていた。
「してないっ!」
 塔は真っ赤になって言い返す。
「怪しいな〜〜。さては部屋でしちゃってベッドが使えないからここで寝てるのか?」
「ちがっ・・・・・・」
 面白がってにやにやする海洋を拳で殴ろうとするがひらりと身をかわされる。
「・・・・・・ゆ、夢で見ただけだよ・・・・」
 夢の中での動揺を思い出し、思わず声が小さくなる塔。
 そう、絶対ないなんて有り得ない。
 向かい側で寝ていた艦長はもそもそと起き出すとなーんだ、と言った。
「そう言う事だったのか。
しちゃったら怒らないからちゃんと言いに来なさい。
一人で後始末は大変だろう?」
「だからしてないって!」
「判ってますって」
 その小馬鹿にした態度が気に入らないんだ!と塔は床を蹴った。
「いいからシャワー浴びて来い」
 海洋はそう言うと尻を軽くはたく。
「うっ!」
 まだ腫れが引かないのか、塔は一瞬体を反らせて声を上げた。
 おやおや、とその様子を見ていた艦長はにやにやとしながら塔の背後に忍び寄り、その尻を軽くぽんぽんとはたき、
「当分は軽いおしおきでも効き目がありそうだな」
 と言った。
 

ライバルのおしおき

朝、その家の住人ふたりが朝食をセットしていると、乱暴に玄関のドアが開く。
現場には物音ひとつ立てることなく忍び入るという男だとは想像出来ないくらいどすどすと足音を立てるとダイニングを通過し、奥の部屋へと挨拶もなしに押し入る。
いつもの光景だが、皇子と家の主である艦長は変に緊張してその姿を追ってしまう。
この後起きる事ももう何日も繰り返されている事なのだが、やはり冷や冷やして気が気でない。
そんな二人の事など我関せず。
殺し屋を生業にしている海洋は、奥の部屋でベッドに入ったまま上目遣いに睨んでいる塔を見た。
毎朝、塔は思うのだ。
冷たい眼差しを持つ、この殺し屋の威圧的な空気には従わないぞ、と。
だが、いつも気が付くと遠慮無しに殴られ、担がれ学校に放り出されてしまう。
海洋の方は塔を学校まで持って行くとさっさとまた戻り、まだ体に緊張を走られたままの皇子と艦長の間で何食わぬ顔で朝食を取り、艦長の運転で途中の道まで送ってもらう。
それが日常だった。
その車の中で艦長が少しやり過ぎじゃないのかと咎めるのも。
だから海洋もその言葉を受け流し気味だった。
だが、今日の艦長は違った。
生返事で「そうだね」と海洋がいつものように適当に相槌で流そうとすると車を停め、海洋に車から降りる様に促した。
「なに?」
いつもと様子が違う艦長の様子をいぶかしみながらも路肩に降り、運転席から降りて来た艦長を見る。
艦長は苛立をはっきり露にすると
「このままでは塔は暴力で解決することしか学べなくなる」
と言った。
「確かに海洋には感謝している。我々には塔は手に負えないし、毎日学校に通わせる事も出来ないと思う。だが、それとこれとは別だ」
海洋は上から言われ、むっとして艦長を見た。
だが、いつもは海洋のへ理屈と威圧的な態度に圧されている艦長の一歩も譲らんとする毅然とした態度に自然と俯いてしまった。
そんな海洋に艦長の長い長い小言が繰り出される。
海洋には雇用関係がない。
親とも暮らした事がない。
艦長の説教を聞きながら、海洋は、これが叱られるということだろうかと思った。
完全に一対一という関係を壊している、このいかんともし難い敗北感。
「他にどうしろと?」
それでも負けじと言い返すと、手を出してと言われる。
「?」
よく判らぬまま利き手の逆を出す。
艦長は手の甲を上に向けさせると
「君は拷問には強いよな?」
と言った。
「多少はね」
そう答えるや否や、ぴしっと甲を打たれる。
「どうだ?」
信じられん、という顔で見上げる海洋に片頬で笑いながら艦長は訊いた。
「なんというか屈辱的だな」
耐えられない痛みではないが、と睨む。
「おしおきさ。
痛いより利く」
「へえ。俺は今おしおきされたわけ?」
艦長が車に乗り込むのを見て自分も車に戻りながら海洋は運転席に座る艦長をねめつけた。
「言っておくけどな」
艦長は車を発進させながら言った。
「俺はお前が塔に強固な態度に出る度にそういう気持ちになってるんだぞ?
まるで俺の不手際を責められてるような気になるんだ」
「あんたは関係ないだろう?」
あいつの問題はあいつの責任だ、と海洋。
「判っててもそう感じるんだよ」
上下関係もしがらみもないお前には判るまいがな、とぼやく。
海洋は、ふーーんと判ったような判らないような返事を返すと
「でもさっきのは効いた」
と言い、助手席に沈み込んだ。
彼なりの謝罪と釈明と反省してますという意思表明なのだろうが、どうしてもこう偉そうなのか。
やれやれ、と艦長はひそかにため息を付いた。


そして翌日。
塔は相変わらず部屋に引きこもり、艦長が呼んでも皇子が呼んでもうんともすんとも言わない。
取り敢えず先に朝食を食べているといつものように扉が開き、どしどしと音を立て海洋が現れ、ダイニングを通り過ぎ、奥の部屋に入って行った。
「なんだよ。
まだ暴力で解決しようってのか?」
塔はベッドの上で寝そべったままふてぶてしい態度で海洋を見る。
海洋は無言でつかつかと歩み寄ると、斜め下から見上げている塔の腕を掴み、引っ張り上げるとうつ伏せにさせた。
「ちょ・・・・・っ」
勢い良くズボンのウェストに手を掛けられ、さすがに塔は慌てた。
さっきまで強気だった表情が顔から消え、真顔になると必死で海洋の次の動きを止めようともがく。
だが、日がな一日腕の怪我を言い訳にだらだらしていた塔と違い、毎日鍛えている海洋はびくともしない。
ズボンを少しだけ下げられたかと思うと、強い平手がその尻を襲った。



二、三度塔の悲鳴が聴こえた、と思ったら激しい物音が響き、皇子と艦長は首だけで廊下の方を見た。
僅かに開いた扉の隙間から、気を失い海洋の背中に背負われ、運ばれて行く塔の姿が見えた。
「昨日の昨日の話を判ってくれたんじゃないのか?」
帰って来た海洋を車に乗せ、職場まで向かう中艦長は不満を述べた。
「結局今まで通りじゃないか」
「違う。あいつ、プライドが無駄に高くて憤死しそうになったんだ。
行き過ぎになる」
不機嫌な口調になる艦長に海洋は慌てて説明した。
「尻に二発が限度だ」
「よわっ!」
思わずそう叫んでしまう艦長。
「なんだってそんなにメンタルが弱いんだ!」
「強かったら毎日気絶させて学校になんか連れて行くことないだろう。
あれじゃあ特攻野郎Aチームのコングを飛行機に乗せるのと同じだ」
「まさか、ずっとこんなんじゃないだろうな」
「そんな先の事より今日の心配をしたら?」
眉をしかめる艦長をじろりと睨み、海洋は言った。
「もしかしたら帰って来ないかもしれない」
「俺が悪いのか?」
思わず海洋に噛み付く艦長。
「お前のやり方が合ってて、俺の意見は間違ってたと?
あいつの為にならないと?」
「そうは言ってないだろ?落ち着けよ。まだ帰って来ないと決まったわけじゃない」
普段はもの静かでおっとり坊ちゃんなこの艦長はたまに熱くなって変な方向に暴走してしまう。
それをまあまあとなだめ、無事に職場まで到着させると海洋は車を降りた。
艦長にはそう言ったものの、実際は海洋も落ち着かなかった。
留守を預かった家で家事をしながら、あいつはちゃんと帰って来るだろうかとそわそわしっぱなしだった。
夕方、ドアの開く音に玄関まで足早に出て行くと顔面に何かが投げ付けられる。
いつもなら完全に避け切るのだが、心ここにあらずだったせいだろう。
もろに真に受けてしまった。
「な・・・・・・・っ」
投げ付けられたのは鞄だった。
それなりに重みのあるそれを除ける隙に塔が飛び掛かって来た。
「・・・・・・今朝はよくも・・・・・・!!」
悔しさで顔を真っ赤にして睨みながら殴り掛かって来る塔に、海洋は何をするんだと言い掛けた言葉を飲み込んだ。
一発で殴り返すと、まだ玄関先にいる皇子をそのままにし床に倒れ伏した塔の腰を小脇に抱え、彼の部屋まで連れ込み、ベッドの上に手を付かせ、まだ荒い息を吐く塔の尻を力任せにズボン越に引っぱたいた。
「うっ!」
塔は一瞬、声を出したが耐えた。
すぐに二発目が来たが逃げなかった。
灯りも点けないままの薄暗い部屋の中、尻を打つ音だけが響いた。



何発打たれたかは判らないが、塔は痛みにもその状況にも耐えた。
今朝彼を捉えた羞恥心と屈辱感はなかった。
腹を立てていたからだろうか。
尻は痛んだが泣きたいほどでもなく、自分の意志を貫いたような気持ちで荒く息を吐いた。
「お前、結構強情だな」
海洋は静かに背中を上下させる塔を見下ろし、静かに言う。
「こんなの、お前はただ他人に言われてやっただけじゃないか。プライドがない」
塔は顔を下に向けたまま言い返した。
海洋は、ふん、と言うとその横に腰を下ろす。
スプリングが効いたベッドが大きく揺れた。
「なあ・・・・・・」
「ん?」
「・・・・・・俺、こんなやり方好きじゃない。俺が意見出来ることじゃないかもしれないけど・・・・・・」
塔はまだ俯いたままで、ゆっくりと言った。
「俺が悪いんだろう?
でも痛くても恥ずかしくても反省出来ない」
「まあ、俺も趣味じゃない。一発殴った方がすっきりする」
そう言うと塔の灰色の髪を撫でる。
「今日は俺が悪かった。でも、艦長が心配している事も判ってくれ」
「・・・・・・うん・・・・・」
「声が小さいな」
「え?」
海洋が立ち上がったので塔は慌てて上半身を起こした。
海洋はその様子ににやっとした。
やっぱり殴る方が効き目がありそうだ。
殴らずに済むならその方がいいのだが。
「夕飯の準備をするだけだ」
「俺も行く!・・・・・っ!」
塔は慌てて立ち上がろうとしたが、出来なかった。
打たれた場所が想像以上に痛んだのだ。
さっきまで気丈に耐えていたのに、目に涙を滲んで来た。その様子に海洋は笑う。
「何だ、効き目はありそうだな」
「くそ・・・・・・・」
にやにやとした海洋の言葉に塔の顔が見る間に真っ赤になった。
無理に立ち上がろうとするがやっぱり立ち上がれない。
海洋はその腕を掴み、引っ張り上げると痛みを庇っているせいで無様な歩き方になっている塔の歩みに合わせ、ゆっくりと台所に向かった。
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