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小さなヒーロー


少しばかりの月が暗闇に隙間を開ける夜だった。
全く普通の建売住宅のベランダに、壁伝いに忍び込む影があった。
そこは住宅街と言ってもひっそりとしていて、その影を見るものもいない。
街灯もあまりない、というのが侵入者には幸いしていた。
ベランダにそっと降り立った影は、体を隠していた大きめのフードを剥ぐとポケットの中から端末を出し、画面を確認する。
「ここで間違いないな・・・・」
その影は手のひらに意識を集中すると、ベランダと部屋を隔てる窓に押し当てる。
小さなきしむ音がしたのを確認すると、影は窓を静かに開け、部屋に潜り込み、灯りの消された部屋の暗がりの中、静かに眠る小さな子供の顔を見た。
自然、唇が歪む。
何度この小娘にしてやられたか。
まだ幼くてランドセルに背負われてるような、赤ん坊みたいに丸まって眠る子供だが、これでもれっきとした正義の味方。地球侵略を目論む影、それはスラリとした手足を持ち、胸もたわわな美貌の持ち主の女は、その幼い少女の二倍以上も年を経ているのに全く歯が立たず連敗を喫している。
上司からも結果を急かされ、キリキリ舞いの彼女は、こうなったら手段は選ばないぞとばかりに、卑怯にも幼いヒーローの弱点を探ることにしたのだ。
戦いのこと以外で。
涼しい顔で眠る、ぷっくらとした頬をしばらく睨んでいたが、いつまでもこうしていても仕方がない。まずは机でも漁ろうか、と踵を返しかけた時、かの幼いヒーローが寝返りを打った。
ほっぺも丸ければお尻も丸いわ、と肩をすくめて目的を果たそうとした女は、そのお尻に妙なものを見つけて凝視した。
暗がりでよく見えないが・・・・・
なにやら濡れているような・・・・
そっと手を差し込むとしっかりとした湿り気が手に当たる。
「ちょっとちょっと!」
女は慌てて小さな体を揺さぶった。
(名前・・・・名前・・・・なんだったっけ)
必死で思い出すが遥か記憶の向こうだ。
「起きろ、おい!」
思った以上にベッドもお尻もびしょびしょだと判り、女は焦った。
このままでは風邪を引いてしまう。
必死で揺さぶり続けると、ようやくまぶたが開く。
「ん?」
最初はぼんやりしていたヒーローだったが、自分の前に見知らぬ人がいるということに驚き、声を上げようとした。女は慌ててその口を塞ぐと、あたしあたし、といつもつけているマスクを被る。
「あ・・・・・あなたは・・・・・ミサキさん・・・・」
ヒーローはとろんとした目でその名前を紡ぎ出す。
「そ、そうそう」
「悪の組織の・・・・・え?!」
「だから、しーっ!」
ミサキはまた口を塞いだ。
「それどころじゃないんだって!早く起きて!」
「え?」
二、三回瞬きをしたヒーローはようやく自分のお尻が濡れてることに気づいて慌てて飛び起きた。電気をつけ、青いシーツに出来た水溜りを確認するとボロボロと涙を溢しはじめる。
ああ、もう!とミサキはヒーローを抱きかかえ、立ち上がらせた。
「泣くのは後、後!風邪引いちゃうよ!」
濡れたシーツごとヒーローを抱っこすると勘で浴室へと向かう。
日本の一戸建ての住宅事情なんて大体一緒だ。


浴室の向こうではシャワーの音に混じってすすり泣く声が聞こえる。
ミサキは一度浴室でゆすいでもらった汚れ物を受け取ると、もう一度洗面所で洗い直し、洗濯機に入れた。
スイッチを入れてはやりたいがこんな夜中に音をさせては自分が怪しまれる。
仕方ないか、と諦め、うつむいたままバスタオルで体を拭き終えたヒーローの手を引いて部屋に戻った。
「どうしよう・・・・」
せっかく泣き止みかけたのに、ベッドに広がるおねしょの証拠を見た途端、また泣き出してしまった。
「どうしたどうした、正義の味方」
ミサキは慌ててその顔を覗き込んだ。
「お、お母さんに怒られる・・・・」
ヒーローは大声で泣き出したいのを堪えながら訴えた。
「もしかして、割としょっちゅう?」
ミサキの問いかけに、ヒーローはこくこくと頷いた。
「こ、今度やったらお尻いっぱい叩くって言われたのに・・・」
と言うなりまためそめそ泣きだすのに、ミサキはうーんと唸った。
シーツやパジャマは洗えてもマットレスは・・・・
「いつも後片付けはお母さんに全部やってもらってる?」
「はい・・・・」
「じゃあ、今度からあたしと一緒にやったみたいに、お洗濯だけでもやってみて」
ね?と言われてヒーローは小さく頷いた。
マットレスはもうしょうがない。
取り敢えず寝る場所だ。
ミサキは濡れたマットレスを折りたたむと子供がどうにか寝れるだけのスペースを作り、掛け布団を敷き布団代わりにし、新しいシーツを探し出すとそこに敷いてやる。
その上に毛布を乗せ
「今夜はこれで」
とヒーローを寝かせた。
「ミサキさんはなんでここに?」
ようやく少し落ち着いたのか、ヒーローは鼻をすんすん言わせながら潤んだ瞳で聞いてくる。
「あたし?」
部屋の電気を消しながらミサキはベッドを振り返った。
「あんたの弱点を探しに来たんだ」
「え・・・・・」
ヒーローは収まりかけた涙をまた浮かべ、恐怖に満ちた目でミサキを見上げた。
「・・・・じゃあ、このこと・・・・・」
「言わない。もっと違うのにする」
だからもう寝なさい、というとミサキは忍び込んで来た時より素早く、その場から立ち去った。
ヒーローの名前はまだ思い出せない。


机の上には今日の宿題。
あと少しで終わる。
ヒーローはそわそわと椅子の上で足を揺らした。
おねしょ癖のある子には夜は恐怖でもある。
しかも・・・・・・

(見られた・・・・・・)


素顔のミサキは美しい女性だった。
マスクの向こうから憎々しげに睨み付けて来る姿からは想像もつかない。
そんな美しい女性に自分のおねしょを見られた。
昨夜のことを思い出し、知らず、頬が熱くなる。
いくら戦いに勝っても自分はまだ未熟な子供。
まるで赤ん坊のようだ、と思われたかもしれないと思うとたまらない。
そんな彼女の耳に、窓をノックする音が聞こえた。
顔を上げるとミサキが何かを持って立っている。
ヒーローは慌てて立ち上がると窓を開けた。
「どうだった?お母さん」
訊いて来るミサキの瞳はまるで共犯者のようだ。
「ちょっとだけ・・・・・」
お尻を撫でながら照れ隠しに笑う。
「後片付けが利いたわね。
今日はこれを持って来たの」
「これ?」
ミサキが机の上に置いたものを見てヒーローは目を丸くした。
それは大き目のオムツだった。
「おねしょなんて、そのうち治っちゃうから弱点になんかならない。
そんなので笑い者にしてもあたしの名が汚れるだけ。
あたしが毎日処理しに来てあげる。
その間にあんたの本当の弱点を探す」
それだけ言うとミサキは窓を開け、ベランダに出た。
その視線の先に机の上の教科書が見える。
そこにヒーローの名前が書かれているのが見えた。
(そうだ・・・・あの子の名前・・・・)
「またね、アカネ」
ミサキはそう言うとベランダからひらりと飛び降りた。
「ミサキさん・・・・・」
アカネはオムツの束を抱えてミサキの去ったあとを見ていた。
(まるでヒーローみたい・・・・)

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