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寺の狐と天の邪鬼

町を一望出来る小高い丘の上にある、大きくはない小奇麗にされた寺の中に、夕方の訪れを知らせる風が吹き込む。座布団の上でまどろんでいた寺の主である狐は、ふさふさとした尻尾をゆっくりと振り、そろそろ目覚めねばなと薄く目を開けた。間もなく口うるさい弟子がやって来る時間だ。
 あと五分まどろんだら起き上がるとしようか。
 誰にともなくそう思うと、狐のかりがねはもう一度瞼を閉じた。
 かりがねは別に本名ではない。
 口うるさくも賢い弟子がそう呼んでいるだけだ。
 そうやって心地よい瞬間に身を落とそうとした時、鋭い怒声が空気を切り裂いた。
 縁側の方からなにやらばたばたと音がする。
 かったるさを感じつつも、これはいよいよ目覚めなくてはいけないということに違いない、と観念し、かりがねは座布団の上で伸びをし、体をぶるっと震わせると立ち上がり人間の姿になった。どのみちぼやぼやしていたら弟子がやって来て座布団の上で眠っていた事に文句を言うのだ。弟子のくせに偉そうな口ぶりで毛が着くだろう、と。
 眉間に皺を寄せた端正な顔を思い浮かべながら、文句を付けられないよう衣類を整え、音のした部屋へ向かうと来客用の大きなちゃぶ台の傍らにへたり込んでいる天の邪鬼を見付けた。
 卓上にあったお菓子の入った容器は無様にひっくり返り、座布団も二、三枚めくれ返っている。
 おそらく怒声の主は弟子のもので、来るなり天の邪鬼たちの悪戯を見付け追い掛けて行ったのだろう。かりがねは、やれやれとため息を付くと赤い浴衣を身にまとった、首謀者であろう天の邪鬼の小柄な体を小脇に抱え大きな音を立てて大股で廊下を渡り、自分の部屋の中にその小さくて軽い体を投げ入れた。
「またお前か」
 そう言うと文机の上に上半身を乗せると浴衣の裾を捲り上げ、天の邪鬼の尻を出す。
 その尻を叩こうと手を振り上げたかりがねだったが、その丸くて小さな尻を包んだ下着に丸い染みを見付け、手を振り下ろすのを思いとどまった。
 彼女は洩らしたのだ。
 だがその足元には水たまりはない。
 この部屋に来る前に下着を濡らしたんだな、とかりがねはそれまでの事を思いめぐらす。
 そう言えばいつもなら真っ先に逃げる彼女が犯行現場に残ったままだった。
 しかもかりがねに抱きかかえられても静かだった。
 恐らく弟子の声に驚いてしまったのだろう。
 彼女は弟子の事を知らない。
 出て来るならかりがねだろうと思ったから見知らぬ男に怒鳴られて怖い想いをしたのかもしれない。
 かりがねはどうしようかと濡れた下着を見詰め、手を振り上げたままでいた。
 天の邪鬼は気が強くてプライドが高い。
 濡れた下着のままでいさせるのは気が進まないがどう指摘するべきか・・・・・
 迷っているといつまでもかりがねが手を振り下ろさない事を不思議に思った天の邪鬼が振り向いた。
 そして、かりがねがこちらを凝視していることに気付いた彼女はその視線を追い・・・・・・・
(嘘でしょ?!)
 一瞬で顔色を失い、すぐに真っ赤になる。
 下着が濡れている。
 それもかなり派手に。
 肩越しに部屋を見ると開いた障子の向こうにまでてんてんと続く小さな水の跡が見える。
(嘘・・・・・・)
 天の邪鬼は動揺して震えた。
 盗み食いや小さないたずらなら軽くお尻を叩かれて終わりだ。
 その後は軽く文句を言われるか、ぽんと外に放り出されるか、天の邪鬼の方が憎まれ口を叩きながら外に飛び出すか。いつもその繰り返しだ。
 でも、これはどうなるんだろう。
 どんなにきつく怒られるか。
 怒られるくらいならいいが、もうここに来る事は出来ないかもしれない。
 天の邪鬼の視界が揺れた。
 目の中に涙が溜まるのが判った。
 股間が一瞬熱くなる。
(また出ちゃう!)
 駄目よ、と天の邪鬼はキツく内股を閉じた。
 ちょっとだけお尻の周りが温かい物で包まれたが床に溢れるのは免れたようだ。
 天の邪鬼はこれ以上油断しないよう、頬を熱くして耐えた。
 その時、今まで振り上げられたままだったかりがねの手がふわりと天の邪鬼の頭の上に乗せられた。あいつ、怖かったか?と優しい声が耳に届く。
 その途端、天の邪鬼の瞳から大きな涙が溺れ、彼女はたまらなくなって大きな声で泣き出した。


 ざっとシャワーからお湯を出すと泣きじゃくる天の邪鬼の体を濡らす。
 髪の先からつま先までを丁寧に洗い、石けんの泡を全て流し終わっても彼女はまだ泣いていた。
 さすがに号泣は止み、すすり泣きに変わってはいたがせっかく奇麗にしたのに顔が涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。
「ほら」
 かりがねはティッシュを彼女の鼻にあてがう。
 天の邪鬼は器用にも泣きながら鼻を擤んだ。
「今、弟子が服を買いに行っているから。あと、叱っておいたからな」
 そう言うとかりがねは一枚の布を器用に天の邪鬼の体に巻き付け、ワンピースのようにした。
 買いに行くって・・・・・・
 叱るって・・・・・
 天の邪鬼は、すん、と鼻をすすり上げるとまた真っ赤になった。
 何があったか判っちゃうじゃない・・・・・
 少しだけむくれているとはいっとバケツと雑巾を渡される。
「奇麗にしておけ」
 そう言うとかりがねは廊下に出来た水たまりの跡を指す。
 折れた心でもたもたと自分の汚した跡を拭いていると、客室の畳をざっと拭き上げ大きな染みの出来た座布団を抱えたかりがねが足早に浴室に戻るのが見えた。
 慌てて残りの汚れを拭き取り、追い掛けると浴室ではたらいに張った湯の中で座布団と浴衣と下着をざぶざぶと洗う姿が見える。
 天の邪鬼は奇麗にしてもらったのにかりがねはお湯はかぶるわ汗まみれだわ、さっぱりなんてしてない。たらいのお湯も、すぐに黄色く汚れて行く。
「・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」
 掠れるような声しか出せず、天の邪鬼は己を憎んだ。
「気にするな」
 何度かお湯を張り替えた後、踏み洗いに切り替えながらかりがねは言った。
 お湯と運動のせいで頬が染まっている。
 そう言われても脳裏には座布団に出来た染みがこびりついて何度も蘇る。
 ちょっと下着を濡らした程度のおもらしだと思っていたのに布団に出来た染みは大きく、しかもその染みは畳にまでくっきり残っていた。
 それどころか浴室に向かうまでに座布団からは滴がぽたぽたと派手な音を立ててしたたっていた。
 また汚れるぞ、とかりがねにどやされたが天の邪鬼は畳に出来た染みを必死になって拭いた。
 お酢が良いぞ、と観念したかりがねが容器を渡す。
 臭いは確かに落ちた気がするが染みは余計に広がった気がする。
 玄関で遅くなった、という声がした。
 帰って来たな、と言うとかりがねは額に出来た汗を裾で拭い、
「いいか?着替えたらその表情はもうおしまい。
いいな?」
 そう言うと天の邪鬼の背中を叩き、玄関に向かった。



 弟子だと言う青年が天の邪鬼に買って来てくれたのは彼女が一度も着た事はないような洋装で、着替え終わった彼女をとてもどきどきさせた。
 かりがねは、着替え終わってもじもじしながら出て来た彼女に似合うよ、と微笑んだ。
 手招きをすると、文机を指す。  
 そうだった。
 天の邪鬼はうなだれ、言われた通りに文机に上半身を投げ出し、お尻が突き出るようにした。
 その途端、彼女は自分が尿意を抱いていた事を思い出した。
 かがんだ為事と文机の縁がお腹に当たったせいだ。
 ・・・・・・どうしよう・・・・・・
 俯く頬に冷や汗が一筋伝う。
 でも、今からトイレに行きたいなんて言ったら逃げると思われるかもしれない。
 かりがねのおしおきはしつこくないからそれくらいなら耐えられるかもしれない。
 ぐるぐる廻る頭で考えていると、くすくす笑う声がして先に用を足して来い、と言われる。
 真っ赤になりながら首を振ると
「知りませんよ?」
 と、かりがねとは違う声がやはり笑いながら言い、天の邪鬼の目の前に携帯電話のモニターが差し出された。
 それはお尻を左右にもじもじと揺らし、脚を交差させ、両の足の指先をこすり合わせる己の姿の動画。
 明らかに限界が来ている動きだ。
「気が付いてないと思いますけど、あなた何度も前を押さえてます・・・・」
「え・・・・・・」
 そう言われた途端、背中にぞくっとした物が走るのを感じ、天の邪鬼は肩を振るわせた。
(出ちゃう・・・・・)
 さっきまで膀胱で留まってくれていたものが一気に入り口に向かって走り出そうとしているのが判る。
 天の邪鬼は文机から体を離し、うずくまった。
「あなたが大丈夫だと言うなら構いませんけど、僕はこのまま撮り続けますからね。
何が映るかなあ・・・・・?」
 声は優しいくせに意地の悪い言い方だ。
 天の邪鬼は刺激を与えない程度に勢い良く立ち上がると、言って来ます!と叫んで足早にトイレに向かった。
「お前、本当に性格悪いな」 
 かりがねはふふふと笑いながらその姿を見送る弟子にほとほと呆れながらぼやいた。
「何言ってるんだ、ちゃんとトイレに行かせたじゃないか。
あのまま彼女の意見を聞き入れても僕としては・・・・」
「・・・・・・今度はお前に全部片付けさせる!」
「間に合わなかったらね」
 大丈夫みたいだよ、と弟子は言いながら体を後ろに反らせた。
 



 ぱん、ぱん、ぱん、と軽く尻を叩かれ、つまみ食いはするな、と睨まれながら天の邪鬼は下着を履き直し、スカートの裾を直して立ち上がった。
「服は乾かしておくからいつでも取りにおいで」
 弟子がにこにこと言う。
 最初に見た怖い表情なんか嘘のような優しい笑顔だ。
 それでも、気を付けていないとまた漏らしてしまいそうなほどの恐怖心がこびりついている。
 天の邪鬼は股に力を込め、せっかく買って貰った新しい下着を汚してしまわないよう耐えた。
 その代わり、喉がごくっと鳴った。
 それは彼にも聴こえたらしい。
 微笑んだまま振り返ると彼は言った。
「それとも着替え用に置いておく?」
 
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