恥ずかしい記憶

家族や親戚がいると心強いこともある。
物理的にそうであることもあるし、精神的にそうだということもあるだろう。
そう実感するような出来事を目の当たりにしたこともある。
それを羨ましいとは思ったことはないし、むしろ「家族も親戚もいない気楽さ」の方を実感することの方が多い。
何せ家族とは平素は煩わしいことの方が多いからだ。
それなのに、これはどうしたことだと元、殺し屋は頭を抱えた。
未成年で逮捕された彼には一応身元引き受け人がいる。
その身元引き受け人には兄弟と言うには年の離れた友人がいて、常に傍をウロウロしていたが、元殺し屋はそんな二人とはある一定の距離を取っていたつもりでいた。
こちらが甘えない代わりに自分の領域にも入れない。
そういうつもりだった。

それなのにだ。

一応、礼儀として挨拶だけはと思って連れて来た恋人に「小さい頃のどうでもいいエピソードを繰り返す親戚」みたいな話を披露するのか。

未成年だったとはいえ、それなりの年齢に達していた元殺し屋にはそんなエピソードなど持ち合わせていないつもりだったから油断していた自分も悪いが

「ホラー映画をうっかり見ちゃって夜、トイレに行くのが怖くなってあとちょっとのところでおもらししちゃったよね」
とか
「足の小指を柱にぶつけてチビって・・・・・」
とか

全員の口を塞いでやりたいのに立場が弱くて出来ない上に、こちらは適当に距離を置いてたせいで向こうのことは大して知らない。恋人は興味津々でふんふん頷いてるときたもんだ。
「だってあなたはあまり自分のこと話さないし」
って無邪気に言うけれど、そんなところから話さないだろう、普通!
「それで?それで?その後どうしたの?」
なんて訊くな!
元殺し屋は悶絶して顔を覆った。
それこそ、身元引き受け人たちが言い出すまで忘れていたことだが、その後の事はよく覚えている。自分でも思い出したくないほど恥ずかしいことなのに、向こうは具体的にそれを口に出そうと言うのだ。
トイレの前でのお漏らしは、それはもう何もかも出し切った後なので後片付けも何もかも任せてしまう羽目になったのは言わずもがなだが、小指をぶつけた時は濡らしてしまったズボンを脱がせてもらってる間にまだ残っていたおしっこをジョロジョロっと漏らしてしまったのだ。

「でも、彼は始終反抗的だったけど怒られるようなことはそんなにしてなくてさあ」

なんて、やっと良い話になったかと思いきや
「あれでしょ?」
なんてあのチビがニヤニヤする。
身元引き受け人はそうそう、なんて楽しそうに頷くけど、元殺し屋には楽しくもなんともない。
どうしてだか、どんなことだか詳細は忘れてしまったが一度だけ彼を激しく怒らせてしまい、もの凄い勢いでズボンから下着までを剥がされると手酷く裸の尻をひっぱたかれた。
彼も相当腹を立てていたのだろうが、元殺し屋はあまりの痛みとショックで派手な音を立てて失禁してしまったのだ。
開いた足の下には、あっという間に湯気の立つ水たまりが出来た。
まるでスコールの雨が雨樋を伝うようだったね、なんて面白そうに言われてもこっちは楽しくもなんともない。
「じゃあ、お前はいくつまでおねしょしてたってんだよ!」
元殺し屋は、身元引き受け人の横でニヤニヤするチビに噛み付いた。
チビと言ってももうすぐ成人なのだが。
チビはうっと言うと顔を真っ赤にして押し黙った。
元殺し屋がこの家に来た時には、もうそんな癖は消えていたが彼が冷え性で結構な歳までベッドで失敗していた話は世間話で聞いていた。今まで敢えて話題にしなかっただけで、ちゃんと知ってる。
「そうだなあ、チビのおねしょは凄かったなあ。
三日も四日も続いた日はわんわん泣いてさあ・・・・」

なんてこの、無神経な身元引き受け人がニコニコしながら何の悪気もなく言うのをチビは慌てて遮ったのを見て、元殺し屋はようやく溜飲が下がる思いをした。

ところで、この話にはまだ続きがある。
元殺し屋と恋人は、その夜、しっとりとした夜を過ごしたのだが、それがチビには刺激的だったらしく、ベッドにたっぷりとおねしょをしてしまったのだ。
パジャマの背中までびしょびしょにして、大きな地図を描き、それをみんなに見られた恥ずかしさでメソメソと泣きながら元殺し屋の恋人に始末をしてもらい、
「クセになるといけないから」
と椅子の上で濡れたお尻のまま身元引受人にお尻を叩かれ、何度もごめんなさい、を言う羽目になったチビは、それからは二度と他人の失敗を面白がることはなかった。
なんてったって、恥ずかしい思い出の最新記録を作ってしまったのだから。


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おねしょにはイイクスリ

これは困ったことになった、と殺し屋は台所で呟いた。
取り敢えず自分に留守を託した家主に連絡をすることにする。
「俺がその辺に置きっぱなしにしたのが悪かった」
「でも、お前ちゃんと警告したんだろう?」
殺し屋が詫びてはいるが淡々とした言葉で告げれば、家主は家主でのんびりとした口調で返す。「まさか毒ではないだろうな」
「毒ではないんだが・・・・」
殺し屋は言葉を濁した。
この家には家主と殺し屋以外に二人の未成年が保護、あるいは養われているのだが、その二人のどちらかが知らぬ間に試作品の薬を飲んでしまったのだ。劇薬でも毒薬でもないのだが、間違っても良い薬ではない。飲んだ人物が大変な目に遭うのだけは明らかなのだ。
「自業自得なんだから良いだろう」
これでも政府の人間で多忙を極める家主は相変わらずのんびりとした口調で告げると通信を切った。
きっと家の中でも最も手に負えない反抗期丸出しの青年が飲んだと思ったのだろう。
殺し屋はため息にならないため息をつくと通信機をオフにした。


今日何度目かの「うわっ!」という情けない声が響いたかと思うと殺し屋が料理の手を休め、廊下との境の扉を開けるのと同じタイミングで、この家に住む人間の一人、亡国の王子が目に涙を
滲ませ、真っ赤にした顔を覗かせた。廊下の明かりがついていないのにも関わらず、彼のズボンが股間の辺りを中心に大きなシミを作っているのが判る。同時に、つんとした異臭も漂って来た。
殺し屋は取り敢えず生理食塩水を渡すと、着替えを渡し、ズボンだけ脱がせて廊下に出た。
いくつか落ちている水滴の跡を辿ると二階に続く階段の途中に大きな水溜まりが出来ている。
殺し屋はその水溜りを脱がせた王子のズボンでぬぐうとお湯を張るために浴室へと向かった。
王子が飲んでしまった試験的な薬には利尿作用、というか強制的に排尿を促す作用があった。
そのせいで王子は突然の失禁に苦しめられるようになった。
頻尿どころか、あっと思った時には漏らしているのだ。
その作用について知らされていなかった彼はいきなりの自分の失禁に恐怖し、失意のどん底に突き落とされる羽目になった。その上、そういう薬だと説明されては、自分の行為をただただ呪うしかない。
殺し屋は起こらなかったが、帰宅して真実を知った家主から尻を激しくひっぱたかれ彼のプライドはもうズタズタだ。
おもらしに次ぐおもらし。
しかも自分には予測出来ない場所で派手にやってしまう。
おまけに日頃は優しい家主に
「おもらしはわざとではないが原因はお前が他人の忠告を聞かなかったからだ」
と冷たく厳しい口調で言い渡された上
「薬の効果が切れるまで、一回失敗するごとにお仕置きをするから」
と言われてしまった。

年がら年中反抗期のもう一人と違い、普段は言い子で通している王子は失敗にも叱られることにも不慣れでダメージがでかいのだ。
殺し屋が台所に続く居間に戻った時には物音を聞きつけ駆けつけた、もう一人の同居人の前で王子は家主の膝に乗せられ、手厳しい平手を尻に食らっていた。
まだ若い、すべすべで張りのある白い柔肌の丸い臀部が、びしっ、ぴしゃん!という音を立てて真っ赤に染まって行く。最初は必死に耐えていた王子も繰り返されるお仕置きと羞恥で、わんわんと声をあげて泣くようになった。
いつもはひねくれた態度を取る、彼より少しだけ年上の同居人はその様子にただオロオロとし、
「ほら、お湯の用意が出来たみたいだから」
と恐る恐る声を掛ける。
家主は薬を飲んだのは彼だと早合点していたが、殺し屋にはこの反抗期丸出しの青年が、それに反してとても怖がりで警戒心が強いことも判っていたからそれはないな、と踏んでいた。
そしてこの反抗期の青年が飲んでしまったなら家主もそこまで腹を立てなかったかもしれない。
家主は裏切られた気持ちでいっぱいになっていたのだ。
「お前はそんなことをしないと思ったのに」
最初のお仕置きの時、何度もその言葉を繰り返した。
さすがに何度も何度もおもらしが続き、王子が言い返すことも出来ずに泣いている姿を見て怒りも少しはおさまったらしいがお仕置きの手は緩まない。
「じゃあ、後五回だ」
とぴしゃんぴしゃんと尻から太ももまでを叩くと、泣きじゃくる王子を膝から下ろした。
「これ、もう止められないの?いつまで続くの?」
王子は浴室の入り口で懇願するように涙を流したままの顔で殺し屋の腕を掴み見上げ、声を震わせながら言った。
尻が痛むのか腰を落とし気味にして、膝をすり合わせてもじもじしている。
「もう二度とあんなことしないから!!」
叫ぶように言うやいなや。
王子はあっ!と声を上げる。

ちょろろろろ・・・・・・・

すり合わせた膝の間から温かいものが流れ、浴室の床をつたい出した。
小さな音はやがて大きな水音に変わり、床を勢い良く叩いた。
「あうう・・・・」
王子は情けない声を上げるともう一度お仕置きを受けるために浴室を出ようとした。
殺し屋はその体を押し戻すとシャワーのコックをひねった。
そのまま床に流れたおしっこと王子の足、膝、そして尻をゆっくり洗い流す。
「お風呂の中だ。よしとしよう」
そう言ってすべすべの赤らんだ肌を手で撫でる。
王子はなすがままになり、返事も出来ずにしゃくり上げた。
こんなこと、一人でも出来るのになんて情けないことだろう。
目の端には、さっき汚したズボンが置かれているのが映る。
シャワーの湯気の間をくぐり抜けて漏らした自分のおしっこの臭いが鼻をついて来た。
そのせいで羞恥心が全身を一気に駆け巡る。

「お前が全部飲み干したんじゃなきゃあなあ・・・・・」
殺し屋はすっかりぐしゃぐしゃになてしまった髪をなでつけながら言った。
「お前はただおもらしをしてるだけのように思うかもしれないが、もし、水の飲めない状況でこうなったらどうする?最後に待ってるのは脱水症状を起こしての死だ。
俺は毒じゃないとは言ったが、そんな風にも使えるんだぞ?」
殺し屋の言葉はどこまでも優しかった。
「・・・・・もうちょっと頑張る・・・・」
王子は鼻をすすり上げると涙でべったべたになった顔をすすぎ、泣くのをぐっと堪えて殺し屋の体にもたれかかった。
そして居間に戻ると、全員に迷惑を掛けることについて謝った。


「嫌かもしれないけど、もうズボンを履くのは止めておこうか」
王子が謝り終えたところで、殺し屋が言った。
「洗濯物もかさむし、着替える方も大変だろうし。
みんなの服を借りれば下は十分隠れるから」
「でも・・・・・汚しちゃうよ?」
王子は不安げにみんなの顔を見回す。
「洗濯すれば問題ないだろ?」
「確かにズボンを毎回履き替えるのは大変だな」
殺し屋の提案に二人は自室に服を取りに戻る。
ソファの上にはあっという間に二人の服が積み上げられた。
「でも、この上で漏らすのは勘弁な」
積み上げられた服を手でポンポンと叩きながら同居人が言い、王子は悔し紛れにグーを突き出すが、そうすると羽織った服の裾が上がり、下着だけの下半身が見えてしまうので結局やり返すことが出来ない。
しかも、力んだせいだろうか。
ジュワッとした温もりを股間に感じたと思った途端、それがお尻まで伝わり・・・・・・・


「ああああああ・・・・・・」


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王子の足元に小さな水溜りが出来る。
「も、漏らしちゃった・・・・・・」
王子は力なくその水溜まりの上にへたり込んだ。
一度体を離れたはずのおしっこがお尻の下でヌメヌメと不快に動き、下着越しにペッタリと張り付くのを感じながらも王子はしばらく立ち上がれずにいた。


さすがに夜も10時を回る頃には失禁は頻繁ではなくなって来たが
「どうする?」
全員が互いに顔を見合わせる。
朝までは少なくとも6時間から8時間。
少なくとも一回は漏らしてしまうであろうことは想像出来る。
「まあ、一回ならなんとかなるとして」
「三回、まで行くと寝るところがなくなるな」
「僕、おねしょしちゃうなんてやだあああ!」
王子は顔を真っ赤にして叫んだ。
そして、何回も叩かれたせいでヒリヒリ痛むお尻に手をやる。
最初は我慢していたが何度も濡らしては叩かれ、洗われるのですっかり敏感になり、耐えることが出来なくなってしまった。
過敏になったせいで叩かれてる最中に二、三度軽く漏らしてしまったほどだ。
「やだって言ったって散々・・・・・・」
「おねしょはまた違うの!!」
王子はさらに声を荒げる。
「今からオムツは用意出来ないしなあ・・・・・」
「オム・・・・・」
家主の言葉に王子は口を閉じた。
「今晩だけの我慢だ。
床にレジャーシートと厚手のタオルか毛布を敷いて寝てもらおう。
マットレスやベッドを汚すより良いだろう?」
「う、うん・・・・・・」
でも、おねしょは決定なんだよね・・・・・
王子はがっくりと首をうなだれた。


暗がりの中、お尻から背中への違和感に、もしかしてと王子は少し尻を持ち上げ手で毛布の上を撫でる。
案の定、濡れた感触が手の平に伝わった。
毛布を取り替えるために起き上がるも、お尻の下で嫌な感覚と音がする。
ため息をつき、濡れた毛布とシートを丸め、下着も借りたシャツも脱ぐ。
新しいシートと毛布を敷き、下着とシャツを着替えてまた横たわる。
眠いのですぐに意識が遠のく。
次に起きた時は上掛けの中からしゃあしゃあという音がしていた。
なんだ、これはおもらしじゃなくて放尿じゃないか・・・・・ぼんやりとした意識の中でそう思う。
お尻の周囲が濡れていることを考えると、すでに一回は漏らしてしまったようだ。
解き放たれたおしっこがどんどん広がるのが判ったが睡魔が勝ってどうにもならなかった。


それからどれくらいしたのかは判らない。
突然上掛けを剥がされたかと思うと仰向けの姿勢からうつ伏せに転がされたかと思うや否や、下着を下ろされ尻を一発叩かれた。
あまりの痛さに飛び起きると殺し屋が上掛けを掴んだままで見下ろしている。
「風邪引くぞ、いつまでそうしているんだ!」
「え?あ!」
王子はおねしょを見られていることに気づいてあたふたするがもう手遅れだ。
ぐいと腕を掴まれると引き上げられ立たされる。
足の下で毛布とシートの間に溜まったおしっこが変に動いて気持ち悪かった。
二回分のおねしょは相当激しかったのか床にまで水溜りを拡げている。
「ほら、早く着替えろ。まずシャワーだ!」
急かされ、慌てて自分の寝ていた場所を退いた王子は尿意を感じて
「その前にトイレ!」
と声を上げて駆け出した。
「え?」
「え?トイレ?」
声を上げた王子も、聞いていた殺し屋も驚いて立ち止まる。
尿意を感じるってことは?
喜びかけた王子だったが
「ああああああっ!」
彼の膀胱には限界が来ていた。
濡れた体でおねしょの毛布の上に転がって体が冷えたのだ。
既に濡れている下着の中央にじわっとしたものが拡がる。
まずい、と察した殺し屋は急いで王子が最初におねしょをしてしまった毛布を掴み、王子を抱えると咄嗟にその足の下に毛布を敷いた。
それと同時に王子は漏らした。
それがちょうど他の二人が居間にやって来た時で


「あああああああああああ!!!」

王子は再び声を上げたのだった。


体をさっぱりさせ、夜中に汚した毛布を片付けてもらい、着替えて朝食の席に着いた王子はすっかり拗ねてしまった。
そりゃあ昨日は何度もおもらしをしたが、目の前であんなに恥ずかしい光景を見られるところまではいかなかった。
「すげー音だったな」
と同居人はしげしげ眺めるし、家主はいらぬ幼い頃の話をしだすし最悪だ。
「まあまあ良いじゃないか、尿意を感じたってことはもう薬は抜けたんだし」
殺し屋の方は人の気も知らぬげに涼しい顔で言う。
みんなの記憶を消せたら良いのに!
王子は顔を真っ赤にして、ずっと俯いたままで朝食を取った。


あのね、子供扱いされてるみたいでイヤだったんだよ。
その日1日を無事に終え、学校から帰宅した王子は殺し屋の夕食の支度を手伝った後、居間のソファーでお茶を飲みながら言った。
「でも、子供だったよね・・・・・」
反抗してダメと言われたものをいじり、服用した挙句面倒も迷惑もかけた。
それなのに拗ねたりヒスを起こしたりした。
「もうしないよ」
王子は殺し屋の目をじっと見つめて言った。
「そうだな。
本当にもし毒だったら・・・・・赤っ恥くらいじゃあ済まないんだぞ?」
殺し屋はそう言うと、王子の髪を撫ぜ、その顔を胸に引き寄せた。
外ではこの家では類を見ないほどの洗濯物が陽射しの中ではためいていた。

ささやかなきっかけ


 きっかけは本当に些細な事だった。
 どっちが先に家に帰っただとか、宿題を終わらせただとか、より褒められただとか・・・・・・
 それが何かにつけての張り合いに発展し、何で競争するのかへと主旨が変わった。
 夏だったのがまずかった。
 どれくらい西瓜を食べられか。
 アイスをたくさん食べたのはどっちか。
 ジュースを何杯飲んだか。
 その結果がどうなるかなんて子供には及びも付かない。
 でも大人達には判っていたから僕と義姉の競り合いをくすくす笑って見ていた。
 大人達?
 義父とその友人だ。
 張り合っている相手は義父の最愛の娘で僕とは同い年だ。
 賢くて気が強くって簡単には折れないがとても優しい。
 それで僕はこの家で孤独を感じずに済んでいる。
 義父も優しい。
 優しいから賢いとは言え、まだ小学生の娘と養子の僕がくだらない張り合いの結果、しょっちゅうトイレに間に合わなくて服を汚してしまったりベッドを濡らしてしまったりしても怒らなかった。
 この家の方針は、なんてったって「子供のうちにしか出来ないことは楽しむべき」なのだから。
 僕たちはここ数日をお尻もシーツもびしょぼしょにしてがっかりした顔で、或はしょんぼりとした顔で目を覚まし、申し訳なさと恥ずかしい気持ちでいっぱいになりながら失敗の報告に行くのに大人達は思った通りだ、と笑うだけ。
 義父は「毎日君たちのトイレの失敗の為に働いているんじゃないんだけどね」と苦笑まじりに言いはするけれど叱りはしない。
 濡れたお尻でもじもじとしている僕たちに
「今度はどっちが大きいおねしょをしたかで競争する?それとも回数?」
 と言われれば負けず嫌いの彼女は今夜こそしない!と鼻息を荒くし、僕は自信もないのにその勢いに引きずられて「僕も負けない」と頬を膨らませる。
 でも大人達は結果が判っているのだ。
 頑張ってね〜〜と嘘くさい微笑みで答えたり、明日こそお義父さんは楽になれるんだね?って言ったり完全に面白がってる。
 そして大人達は正しい。
 翌朝には二人で涙で目を潤ませ、うなだれながら大人に報告しに行く羽目になる。
 パジャマくらい自分で替えられるけど濡れたベッドはどうしたらいいのか判らないんだから情けない限りだ。でも、それ以上に僕たちは競争に夢中になり、甘やかされてる事に少しばかりの快楽を覚えていた。


 この競争が終わったのは夏が終わったからではない。
 大人たちがもう止めなさいと言ったわけでもない。
「ばかばかしい事を楽しめるのは今だけ」を信条にしている義父が僕たちの失敗をせっせと写真に収めている事が判ったからだ。
 義父は器用で撮影だって巧い。
 劇的瞬間なんかそりゃあもうバッチリ。
 大人達はその劇的瞬間を眺めて可愛い可愛いの連呼だけど写された僕たちはたまらない。
 ぎゅうっと股間を押さえてるのだって恥ずかしいのにズボンに出来た染みから、股から滴る滴までクリアに写っているもの。
 足元に出来た水たまりに呆然とするだけの姿。
 あとちょっとでトイレだったのに直前で全部出してしまった瞬間。
 お尻に同じような丸い染みを作って一生懸命言い訳している二人。
 ぐっしょり濡れたベッド。
 手で前を押さえ大泣きしながら、漏らしてる姿。
 幼稚園児みたいに上から下までの着替えを手伝ってもらってる姿。
 抱っこして貰った途端に漏らしてしまったものもある。
 これだけでも充分恥ずかしいのにこれ以上の事があるのかと思うと僕たちは耐えられなかった。
 大人達は残念がったが僕たちは取り敢えず、平和に生きる事を選んだのだった。

寺の狐と天の邪鬼

町を一望出来る小高い丘の上にある、大きくはない小奇麗にされた寺の中に、夕方の訪れを知らせる風が吹き込む。座布団の上でまどろんでいた寺の主である狐は、ふさふさとした尻尾をゆっくりと振り、そろそろ目覚めねばなと薄く目を開けた。間もなく口うるさい弟子がやって来る時間だ。
 あと五分まどろんだら起き上がるとしようか。
 誰にともなくそう思うと、狐のかりがねはもう一度瞼を閉じた。
 かりがねは別に本名ではない。
 口うるさくも賢い弟子がそう呼んでいるだけだ。
 そうやって心地よい瞬間に身を落とそうとした時、鋭い怒声が空気を切り裂いた。
 縁側の方からなにやらばたばたと音がする。
 かったるさを感じつつも、これはいよいよ目覚めなくてはいけないということに違いない、と観念し、かりがねは座布団の上で伸びをし、体をぶるっと震わせると立ち上がり人間の姿になった。どのみちぼやぼやしていたら弟子がやって来て座布団の上で眠っていた事に文句を言うのだ。弟子のくせに偉そうな口ぶりで毛が着くだろう、と。
 眉間に皺を寄せた端正な顔を思い浮かべながら、文句を付けられないよう衣類を整え、音のした部屋へ向かうと来客用の大きなちゃぶ台の傍らにへたり込んでいる天の邪鬼を見付けた。
 卓上にあったお菓子の入った容器は無様にひっくり返り、座布団も二、三枚めくれ返っている。
 おそらく怒声の主は弟子のもので、来るなり天の邪鬼たちの悪戯を見付け追い掛けて行ったのだろう。かりがねは、やれやれとため息を付くと赤い浴衣を身にまとった、首謀者であろう天の邪鬼の小柄な体を小脇に抱え大きな音を立てて大股で廊下を渡り、自分の部屋の中にその小さくて軽い体を投げ入れた。
「またお前か」
 そう言うと文机の上に上半身を乗せると浴衣の裾を捲り上げ、天の邪鬼の尻を出す。
 その尻を叩こうと手を振り上げたかりがねだったが、その丸くて小さな尻を包んだ下着に丸い染みを見付け、手を振り下ろすのを思いとどまった。
 彼女は洩らしたのだ。
 だがその足元には水たまりはない。
 この部屋に来る前に下着を濡らしたんだな、とかりがねはそれまでの事を思いめぐらす。
 そう言えばいつもなら真っ先に逃げる彼女が犯行現場に残ったままだった。
 しかもかりがねに抱きかかえられても静かだった。
 恐らく弟子の声に驚いてしまったのだろう。
 彼女は弟子の事を知らない。
 出て来るならかりがねだろうと思ったから見知らぬ男に怒鳴られて怖い想いをしたのかもしれない。
 かりがねはどうしようかと濡れた下着を見詰め、手を振り上げたままでいた。
 天の邪鬼は気が強くてプライドが高い。
 濡れた下着のままでいさせるのは気が進まないがどう指摘するべきか・・・・・
 迷っているといつまでもかりがねが手を振り下ろさない事を不思議に思った天の邪鬼が振り向いた。
 そして、かりがねがこちらを凝視していることに気付いた彼女はその視線を追い・・・・・・・
(嘘でしょ?!)
 一瞬で顔色を失い、すぐに真っ赤になる。
 下着が濡れている。
 それもかなり派手に。
 肩越しに部屋を見ると開いた障子の向こうにまでてんてんと続く小さな水の跡が見える。
(嘘・・・・・・)
 天の邪鬼は動揺して震えた。
 盗み食いや小さないたずらなら軽くお尻を叩かれて終わりだ。
 その後は軽く文句を言われるか、ぽんと外に放り出されるか、天の邪鬼の方が憎まれ口を叩きながら外に飛び出すか。いつもその繰り返しだ。
 でも、これはどうなるんだろう。
 どんなにきつく怒られるか。
 怒られるくらいならいいが、もうここに来る事は出来ないかもしれない。
 天の邪鬼の視界が揺れた。
 目の中に涙が溜まるのが判った。
 股間が一瞬熱くなる。
(また出ちゃう!)
 駄目よ、と天の邪鬼はキツく内股を閉じた。
 ちょっとだけお尻の周りが温かい物で包まれたが床に溢れるのは免れたようだ。
 天の邪鬼はこれ以上油断しないよう、頬を熱くして耐えた。
 その時、今まで振り上げられたままだったかりがねの手がふわりと天の邪鬼の頭の上に乗せられた。あいつ、怖かったか?と優しい声が耳に届く。
 その途端、天の邪鬼の瞳から大きな涙が溺れ、彼女はたまらなくなって大きな声で泣き出した。


 ざっとシャワーからお湯を出すと泣きじゃくる天の邪鬼の体を濡らす。
 髪の先からつま先までを丁寧に洗い、石けんの泡を全て流し終わっても彼女はまだ泣いていた。
 さすがに号泣は止み、すすり泣きに変わってはいたがせっかく奇麗にしたのに顔が涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。
「ほら」
 かりがねはティッシュを彼女の鼻にあてがう。
 天の邪鬼は器用にも泣きながら鼻を擤んだ。
「今、弟子が服を買いに行っているから。あと、叱っておいたからな」
 そう言うとかりがねは一枚の布を器用に天の邪鬼の体に巻き付け、ワンピースのようにした。
 買いに行くって・・・・・・
 叱るって・・・・・
 天の邪鬼は、すん、と鼻をすすり上げるとまた真っ赤になった。
 何があったか判っちゃうじゃない・・・・・
 少しだけむくれているとはいっとバケツと雑巾を渡される。
「奇麗にしておけ」
 そう言うとかりがねは廊下に出来た水たまりの跡を指す。
 折れた心でもたもたと自分の汚した跡を拭いていると、客室の畳をざっと拭き上げ大きな染みの出来た座布団を抱えたかりがねが足早に浴室に戻るのが見えた。
 慌てて残りの汚れを拭き取り、追い掛けると浴室ではたらいに張った湯の中で座布団と浴衣と下着をざぶざぶと洗う姿が見える。
 天の邪鬼は奇麗にしてもらったのにかりがねはお湯はかぶるわ汗まみれだわ、さっぱりなんてしてない。たらいのお湯も、すぐに黄色く汚れて行く。
「・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」
 掠れるような声しか出せず、天の邪鬼は己を憎んだ。
「気にするな」
 何度かお湯を張り替えた後、踏み洗いに切り替えながらかりがねは言った。
 お湯と運動のせいで頬が染まっている。
 そう言われても脳裏には座布団に出来た染みがこびりついて何度も蘇る。
 ちょっと下着を濡らした程度のおもらしだと思っていたのに布団に出来た染みは大きく、しかもその染みは畳にまでくっきり残っていた。
 それどころか浴室に向かうまでに座布団からは滴がぽたぽたと派手な音を立ててしたたっていた。
 また汚れるぞ、とかりがねにどやされたが天の邪鬼は畳に出来た染みを必死になって拭いた。
 お酢が良いぞ、と観念したかりがねが容器を渡す。
 臭いは確かに落ちた気がするが染みは余計に広がった気がする。
 玄関で遅くなった、という声がした。
 帰って来たな、と言うとかりがねは額に出来た汗を裾で拭い、
「いいか?着替えたらその表情はもうおしまい。
いいな?」
 そう言うと天の邪鬼の背中を叩き、玄関に向かった。



 弟子だと言う青年が天の邪鬼に買って来てくれたのは彼女が一度も着た事はないような洋装で、着替え終わった彼女をとてもどきどきさせた。
 かりがねは、着替え終わってもじもじしながら出て来た彼女に似合うよ、と微笑んだ。
 手招きをすると、文机を指す。  
 そうだった。
 天の邪鬼はうなだれ、言われた通りに文机に上半身を投げ出し、お尻が突き出るようにした。
 その途端、彼女は自分が尿意を抱いていた事を思い出した。
 かがんだ為事と文机の縁がお腹に当たったせいだ。
 ・・・・・・どうしよう・・・・・・
 俯く頬に冷や汗が一筋伝う。
 でも、今からトイレに行きたいなんて言ったら逃げると思われるかもしれない。
 かりがねのおしおきはしつこくないからそれくらいなら耐えられるかもしれない。
 ぐるぐる廻る頭で考えていると、くすくす笑う声がして先に用を足して来い、と言われる。
 真っ赤になりながら首を振ると
「知りませんよ?」
 と、かりがねとは違う声がやはり笑いながら言い、天の邪鬼の目の前に携帯電話のモニターが差し出された。
 それはお尻を左右にもじもじと揺らし、脚を交差させ、両の足の指先をこすり合わせる己の姿の動画。
 明らかに限界が来ている動きだ。
「気が付いてないと思いますけど、あなた何度も前を押さえてます・・・・」
「え・・・・・・」
 そう言われた途端、背中にぞくっとした物が走るのを感じ、天の邪鬼は肩を振るわせた。
(出ちゃう・・・・・)
 さっきまで膀胱で留まってくれていたものが一気に入り口に向かって走り出そうとしているのが判る。
 天の邪鬼は文机から体を離し、うずくまった。
「あなたが大丈夫だと言うなら構いませんけど、僕はこのまま撮り続けますからね。
何が映るかなあ・・・・・?」
 声は優しいくせに意地の悪い言い方だ。
 天の邪鬼は刺激を与えない程度に勢い良く立ち上がると、言って来ます!と叫んで足早にトイレに向かった。
「お前、本当に性格悪いな」 
 かりがねはふふふと笑いながらその姿を見送る弟子にほとほと呆れながらぼやいた。
「何言ってるんだ、ちゃんとトイレに行かせたじゃないか。
あのまま彼女の意見を聞き入れても僕としては・・・・」
「・・・・・・今度はお前に全部片付けさせる!」
「間に合わなかったらね」
 大丈夫みたいだよ、と弟子は言いながら体を後ろに反らせた。
 



 ぱん、ぱん、ぱん、と軽く尻を叩かれ、つまみ食いはするな、と睨まれながら天の邪鬼は下着を履き直し、スカートの裾を直して立ち上がった。
「服は乾かしておくからいつでも取りにおいで」
 弟子がにこにこと言う。
 最初に見た怖い表情なんか嘘のような優しい笑顔だ。
 それでも、気を付けていないとまた漏らしてしまいそうなほどの恐怖心がこびりついている。
 天の邪鬼は股に力を込め、せっかく買って貰った新しい下着を汚してしまわないよう耐えた。
 その代わり、喉がごくっと鳴った。
 それは彼にも聴こえたらしい。
 微笑んだまま振り返ると彼は言った。
「それとも着替え用に置いておく?」
 
プロフィール

りろいべる

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