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小さなヒーロー


少しばかりの月が暗闇に隙間を開ける夜だった。
全く普通の建売住宅のベランダに、壁伝いに忍び込む影があった。
そこは住宅街と言ってもひっそりとしていて、その影を見るものもいない。
街灯もあまりない、というのが侵入者には幸いしていた。
ベランダにそっと降り立った影は、体を隠していた大きめのフードを剥ぐとポケットの中から端末を出し、画面を確認する。
「ここで間違いないな・・・・」
その影は手のひらに意識を集中すると、ベランダと部屋を隔てる窓に押し当てる。
小さなきしむ音がしたのを確認すると、影は窓を静かに開け、部屋に潜り込み、灯りの消された部屋の暗がりの中、静かに眠る小さな子供の顔を見た。
自然、唇が歪む。
何度この小娘にしてやられたか。
まだ幼くてランドセルに背負われてるような、赤ん坊みたいに丸まって眠る子供だが、これでもれっきとした正義の味方。地球侵略を目論む影、それはスラリとした手足を持ち、胸もたわわな美貌の持ち主の女は、その幼い少女の二倍以上も年を経ているのに全く歯が立たず連敗を喫している。
上司からも結果を急かされ、キリキリ舞いの彼女は、こうなったら手段は選ばないぞとばかりに、卑怯にも幼いヒーローの弱点を探ることにしたのだ。
戦いのこと以外で。
涼しい顔で眠る、ぷっくらとした頬をしばらく睨んでいたが、いつまでもこうしていても仕方がない。まずは机でも漁ろうか、と踵を返しかけた時、かの幼いヒーローが寝返りを打った。
ほっぺも丸ければお尻も丸いわ、と肩をすくめて目的を果たそうとした女は、そのお尻に妙なものを見つけて凝視した。
暗がりでよく見えないが・・・・・
なにやら濡れているような・・・・
そっと手を差し込むとしっかりとした湿り気が手に当たる。
「ちょっとちょっと!」
女は慌てて小さな体を揺さぶった。
(名前・・・・名前・・・・なんだったっけ)
必死で思い出すが遥か記憶の向こうだ。
「起きろ、おい!」
思った以上にベッドもお尻もびしょびしょだと判り、女は焦った。
このままでは風邪を引いてしまう。
必死で揺さぶり続けると、ようやくまぶたが開く。
「ん?」
最初はぼんやりしていたヒーローだったが、自分の前に見知らぬ人がいるということに驚き、声を上げようとした。女は慌ててその口を塞ぐと、あたしあたし、といつもつけているマスクを被る。
「あ・・・・・あなたは・・・・・ミサキさん・・・・」
ヒーローはとろんとした目でその名前を紡ぎ出す。
「そ、そうそう」
「悪の組織の・・・・・え?!」
「だから、しーっ!」
ミサキはまた口を塞いだ。
「それどころじゃないんだって!早く起きて!」
「え?」
二、三回瞬きをしたヒーローはようやく自分のお尻が濡れてることに気づいて慌てて飛び起きた。電気をつけ、青いシーツに出来た水溜りを確認するとボロボロと涙を溢しはじめる。
ああ、もう!とミサキはヒーローを抱きかかえ、立ち上がらせた。
「泣くのは後、後!風邪引いちゃうよ!」
濡れたシーツごとヒーローを抱っこすると勘で浴室へと向かう。
日本の一戸建ての住宅事情なんて大体一緒だ。


浴室の向こうではシャワーの音に混じってすすり泣く声が聞こえる。
ミサキは一度浴室でゆすいでもらった汚れ物を受け取ると、もう一度洗面所で洗い直し、洗濯機に入れた。
スイッチを入れてはやりたいがこんな夜中に音をさせては自分が怪しまれる。
仕方ないか、と諦め、うつむいたままバスタオルで体を拭き終えたヒーローの手を引いて部屋に戻った。
「どうしよう・・・・」
せっかく泣き止みかけたのに、ベッドに広がるおねしょの証拠を見た途端、また泣き出してしまった。
「どうしたどうした、正義の味方」
ミサキは慌ててその顔を覗き込んだ。
「お、お母さんに怒られる・・・・」
ヒーローは大声で泣き出したいのを堪えながら訴えた。
「もしかして、割としょっちゅう?」
ミサキの問いかけに、ヒーローはこくこくと頷いた。
「こ、今度やったらお尻いっぱい叩くって言われたのに・・・」
と言うなりまためそめそ泣きだすのに、ミサキはうーんと唸った。
シーツやパジャマは洗えてもマットレスは・・・・
「いつも後片付けはお母さんに全部やってもらってる?」
「はい・・・・」
「じゃあ、今度からあたしと一緒にやったみたいに、お洗濯だけでもやってみて」
ね?と言われてヒーローは小さく頷いた。
マットレスはもうしょうがない。
取り敢えず寝る場所だ。
ミサキは濡れたマットレスを折りたたむと子供がどうにか寝れるだけのスペースを作り、掛け布団を敷き布団代わりにし、新しいシーツを探し出すとそこに敷いてやる。
その上に毛布を乗せ
「今夜はこれで」
とヒーローを寝かせた。
「ミサキさんはなんでここに?」
ようやく少し落ち着いたのか、ヒーローは鼻をすんすん言わせながら潤んだ瞳で聞いてくる。
「あたし?」
部屋の電気を消しながらミサキはベッドを振り返った。
「あんたの弱点を探しに来たんだ」
「え・・・・・」
ヒーローは収まりかけた涙をまた浮かべ、恐怖に満ちた目でミサキを見上げた。
「・・・・じゃあ、このこと・・・・・」
「言わない。もっと違うのにする」
だからもう寝なさい、というとミサキは忍び込んで来た時より素早く、その場から立ち去った。
ヒーローの名前はまだ思い出せない。


机の上には今日の宿題。
あと少しで終わる。
ヒーローはそわそわと椅子の上で足を揺らした。
おねしょ癖のある子には夜は恐怖でもある。
しかも・・・・・・

(見られた・・・・・・)


素顔のミサキは美しい女性だった。
マスクの向こうから憎々しげに睨み付けて来る姿からは想像もつかない。
そんな美しい女性に自分のおねしょを見られた。
昨夜のことを思い出し、知らず、頬が熱くなる。
いくら戦いに勝っても自分はまだ未熟な子供。
まるで赤ん坊のようだ、と思われたかもしれないと思うとたまらない。
そんな彼女の耳に、窓をノックする音が聞こえた。
顔を上げるとミサキが何かを持って立っている。
ヒーローは慌てて立ち上がると窓を開けた。
「どうだった?お母さん」
訊いて来るミサキの瞳はまるで共犯者のようだ。
「ちょっとだけ・・・・・」
お尻を撫でながら照れ隠しに笑う。
「後片付けが利いたわね。
今日はこれを持って来たの」
「これ?」
ミサキが机の上に置いたものを見てヒーローは目を丸くした。
それは大き目のオムツだった。
「おねしょなんて、そのうち治っちゃうから弱点になんかならない。
そんなので笑い者にしてもあたしの名が汚れるだけ。
あたしが毎日処理しに来てあげる。
その間にあんたの本当の弱点を探す」
それだけ言うとミサキは窓を開け、ベランダに出た。
その視線の先に机の上の教科書が見える。
そこにヒーローの名前が書かれているのが見えた。
(そうだ・・・・あの子の名前・・・・)
「またね、アカネ」
ミサキはそう言うとベランダからひらりと飛び降りた。
「ミサキさん・・・・・」
アカネはオムツの束を抱えてミサキの去ったあとを見ていた。
(まるでヒーローみたい・・・・)

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父の日の慌ただしい朝

 それは清々しい風の吹く、日曜日の朝のことだった。
休日になるといつもより少しだけ早めに起きてくる家族が台所に集まり、朝食の準備をしていると


「おねしょだよ!」
「おねしょじゃないだろう」
「おねしょだもん!」

と、一番下の娘と父親の揉める声が聞こえて来る。
なんだなんだ、と母親と、上の兄弟が家事もそこそこに覗きに行くと、真ん中に大きな水溜りを作った布団を挟んで娘と父親が言い争いをしていた。

「だからおねしょだもん!!」

娘は顔を真っ赤にして地団駄を踏んで抗議する。
確かにそれはおねしょだ、と誰もが思った。
布団にはっきりとおしっこの水溜りが出来ている。
だが父親は違うだろう、と譲らない。
「だって見てみろよ」
と父親は、交互に両足を踏み鳴らす娘の尻をみんなに向けた。
「あれ?」
パジャマのズボンが濡れていない。
「こいつさあ、突然起き出したかと思ったらズボンとパンツを脱いでしゃがみ出して、ここにおしっこし始めちゃって・・・・・終わったら何事もなかったかのようにまたパンツとズボンを履いて寝ちゃったわけ」
どういうこと?と怪訝な顔をする家族に父親は半笑いで教える。
「だからおねしょじゃないんだよ」
「おねしょだもん!!!寝ちゃってしたんだからおねしょだもん!!」
娘は更に激しく両足を踏み鳴らして叫んだ。
本人としては寝ぼけてパンツを下げておしっこを布団にしちゃったことの方が不名誉なことらしい。
「どっちでもいいから、とにかく体を洗って布団を干しましょう」
と、母親が娘の方に手をかけた時。

濡れていなかったパジャマのお尻に勢いよく丸いシミが広がり


しゅわわわわわーーーーーー・・・・・・

という音が足の間から聞こえたかと思うと畳を水音がうち、娘の両足の間に水溜りが出来、どんどん大きくなる。

「・・・・・・お前、おしっこ我慢してたのか・・・・」
地団駄を踏んでいたと思ったのはおしっこを我慢してる仕草だったのだ。
「だってパパがおねしょだって言ってくれないから!!」
娘はわんわん泣きながら叫んだ。
「せっかくパジャマは濡らさなかったのになあ」
兄たちはびしょびしょに濡れたズボンを引っ張って濡れた部分を確認する。
そしてするりと濡れたズボンとパジャマを脱がせると
「こんなにいっぱい漏らして、布団もあんなに濡れて・・・・・ジュースの飲みすぎだ!」
とお尻を何度かぴしゃん、とひっぱたいた。
それはさすがに否定出来ず、娘は悔しさをいっぱいにして言い返すのを我慢し、痛んだ尻を撫でる。
最後にちょっとだけ残っていたおしっこを恥じかきついでとばかりにしょろっと漏らすと兄に抱かれて風呂場に行った。

その日からしつこく「お布団はトイレじゃないんだぞ」と家族にからかわれて娘は悔しさを我慢しながら眠りにつくのだった。

恥ずかしい記憶

家族や親戚がいると心強いこともある。
物理的にそうであることもあるし、精神的にそうだということもあるだろう。
そう実感するような出来事を目の当たりにしたこともある。
それを羨ましいとは思ったことはないし、むしろ「家族も親戚もいない気楽さ」の方を実感することの方が多い。
何せ家族とは平素は煩わしいことの方が多いからだ。
それなのに、これはどうしたことだと元、殺し屋は頭を抱えた。
未成年で逮捕された彼には一応身元引き受け人がいる。
その身元引き受け人には兄弟と言うには年の離れた友人がいて、常に傍をウロウロしていたが、元殺し屋はそんな二人とはある一定の距離を取っていたつもりでいた。
こちらが甘えない代わりに自分の領域にも入れない。
そういうつもりだった。

それなのにだ。

一応、礼儀として挨拶だけはと思って連れて来た恋人に「小さい頃のどうでもいいエピソードを繰り返す親戚」みたいな話を披露するのか。

未成年だったとはいえ、それなりの年齢に達していた元殺し屋にはそんなエピソードなど持ち合わせていないつもりだったから油断していた自分も悪いが

「ホラー映画をうっかり見ちゃって夜、トイレに行くのが怖くなってあとちょっとのところでおもらししちゃったよね」
とか
「足の小指を柱にぶつけてチビって・・・・・」
とか

全員の口を塞いでやりたいのに立場が弱くて出来ない上に、こちらは適当に距離を置いてたせいで向こうのことは大して知らない。恋人は興味津々でふんふん頷いてるときたもんだ。
「だってあなたはあまり自分のこと話さないし」
って無邪気に言うけれど、そんなところから話さないだろう、普通!
「それで?それで?その後どうしたの?」
なんて訊くな!
元殺し屋は悶絶して顔を覆った。
それこそ、身元引き受け人たちが言い出すまで忘れていたことだが、その後の事はよく覚えている。自分でも思い出したくないほど恥ずかしいことなのに、向こうは具体的にそれを口に出そうと言うのだ。
トイレの前でのお漏らしは、それはもう何もかも出し切った後なので後片付けも何もかも任せてしまう羽目になったのは言わずもがなだが、小指をぶつけた時は濡らしてしまったズボンを脱がせてもらってる間にまだ残っていたおしっこをジョロジョロっと漏らしてしまったのだ。

「でも、彼は始終反抗的だったけど怒られるようなことはそんなにしてなくてさあ」

なんて、やっと良い話になったかと思いきや
「あれでしょ?」
なんてあのチビがニヤニヤする。
身元引き受け人はそうそう、なんて楽しそうに頷くけど、元殺し屋には楽しくもなんともない。
どうしてだか、どんなことだか詳細は忘れてしまったが一度だけ彼を激しく怒らせてしまい、もの凄い勢いでズボンから下着までを剥がされると手酷く裸の尻をひっぱたかれた。
彼も相当腹を立てていたのだろうが、元殺し屋はあまりの痛みとショックで派手な音を立てて失禁してしまったのだ。
開いた足の下には、あっという間に湯気の立つ水たまりが出来た。
まるでスコールの雨が雨樋を伝うようだったね、なんて面白そうに言われてもこっちは楽しくもなんともない。
「じゃあ、お前はいくつまでおねしょしてたってんだよ!」
元殺し屋は、身元引き受け人の横でニヤニヤするチビに噛み付いた。
チビと言ってももうすぐ成人なのだが。
チビはうっと言うと顔を真っ赤にして押し黙った。
元殺し屋がこの家に来た時には、もうそんな癖は消えていたが彼が冷え性で結構な歳までベッドで失敗していた話は世間話で聞いていた。今まで敢えて話題にしなかっただけで、ちゃんと知ってる。
「そうだなあ、チビのおねしょは凄かったなあ。
三日も四日も続いた日はわんわん泣いてさあ・・・・」

なんてこの、無神経な身元引き受け人がニコニコしながら何の悪気もなく言うのをチビは慌てて遮ったのを見て、元殺し屋はようやく溜飲が下がる思いをした。

ところで、この話にはまだ続きがある。
元殺し屋と恋人は、その夜、しっとりとした夜を過ごしたのだが、それがチビには刺激的だったらしく、ベッドにたっぷりとおねしょをしてしまったのだ。
パジャマの背中までびしょびしょにして、大きな地図を描き、それをみんなに見られた恥ずかしさでメソメソと泣きながら元殺し屋の恋人に始末をしてもらい、
「クセになるといけないから」
と椅子の上で濡れたお尻のまま身元引受人にお尻を叩かれ、何度もごめんなさい、を言う羽目になったチビは、それからは二度と他人の失敗を面白がることはなかった。
なんてったって、恥ずかしい思い出の最新記録を作ってしまったのだから。


おねしょにはイイクスリ

これは困ったことになった、と殺し屋は台所で呟いた。
取り敢えず自分に留守を託した家主に連絡をすることにする。
「俺がその辺に置きっぱなしにしたのが悪かった」
「でも、お前ちゃんと警告したんだろう?」
殺し屋が詫びてはいるが淡々とした言葉で告げれば、家主は家主でのんびりとした口調で返す。「まさか毒ではないだろうな」
「毒ではないんだが・・・・」
殺し屋は言葉を濁した。
この家には家主と殺し屋以外に二人の未成年が保護、あるいは養われているのだが、その二人のどちらかが知らぬ間に試作品の薬を飲んでしまったのだ。劇薬でも毒薬でもないのだが、間違っても良い薬ではない。飲んだ人物が大変な目に遭うのだけは明らかなのだ。
「自業自得なんだから良いだろう」
これでも政府の人間で多忙を極める家主は相変わらずのんびりとした口調で告げると通信を切った。
きっと家の中でも最も手に負えない反抗期丸出しの青年が飲んだと思ったのだろう。
殺し屋はため息にならないため息をつくと通信機をオフにした。


今日何度目かの「うわっ!」という情けない声が響いたかと思うと殺し屋が料理の手を休め、廊下との境の扉を開けるのと同じタイミングで、この家に住む人間の一人、亡国の王子が目に涙を
滲ませ、真っ赤にした顔を覗かせた。廊下の明かりがついていないのにも関わらず、彼のズボンが股間の辺りを中心に大きなシミを作っているのが判る。同時に、つんとした異臭も漂って来た。
殺し屋は取り敢えず生理食塩水を渡すと、着替えを渡し、ズボンだけ脱がせて廊下に出た。
いくつか落ちている水滴の跡を辿ると二階に続く階段の途中に大きな水溜まりが出来ている。
殺し屋はその水溜りを脱がせた王子のズボンでぬぐうとお湯を張るために浴室へと向かった。
王子が飲んでしまった試験的な薬には利尿作用、というか強制的に排尿を促す作用があった。
そのせいで王子は突然の失禁に苦しめられるようになった。
頻尿どころか、あっと思った時には漏らしているのだ。
その作用について知らされていなかった彼はいきなりの自分の失禁に恐怖し、失意のどん底に突き落とされる羽目になった。その上、そういう薬だと説明されては、自分の行為をただただ呪うしかない。
殺し屋は起こらなかったが、帰宅して真実を知った家主から尻を激しくひっぱたかれ彼のプライドはもうズタズタだ。
おもらしに次ぐおもらし。
しかも自分には予測出来ない場所で派手にやってしまう。
おまけに日頃は優しい家主に
「おもらしはわざとではないが原因はお前が他人の忠告を聞かなかったからだ」
と冷たく厳しい口調で言い渡された上
「薬の効果が切れるまで、一回失敗するごとにお仕置きをするから」
と言われてしまった。

年がら年中反抗期のもう一人と違い、普段は言い子で通している王子は失敗にも叱られることにも不慣れでダメージがでかいのだ。
殺し屋が台所に続く居間に戻った時には物音を聞きつけ駆けつけた、もう一人の同居人の前で王子は家主の膝に乗せられ、手厳しい平手を尻に食らっていた。
まだ若い、すべすべで張りのある白い柔肌の丸い臀部が、びしっ、ぴしゃん!という音を立てて真っ赤に染まって行く。最初は必死に耐えていた王子も繰り返されるお仕置きと羞恥で、わんわんと声をあげて泣くようになった。
いつもはひねくれた態度を取る、彼より少しだけ年上の同居人はその様子にただオロオロとし、
「ほら、お湯の用意が出来たみたいだから」
と恐る恐る声を掛ける。
家主は薬を飲んだのは彼だと早合点していたが、殺し屋にはこの反抗期丸出しの青年が、それに反してとても怖がりで警戒心が強いことも判っていたからそれはないな、と踏んでいた。
そしてこの反抗期の青年が飲んでしまったなら家主もそこまで腹を立てなかったかもしれない。
家主は裏切られた気持ちでいっぱいになっていたのだ。
「お前はそんなことをしないと思ったのに」
最初のお仕置きの時、何度もその言葉を繰り返した。
さすがに何度も何度もおもらしが続き、王子が言い返すことも出来ずに泣いている姿を見て怒りも少しはおさまったらしいがお仕置きの手は緩まない。
「じゃあ、後五回だ」
とぴしゃんぴしゃんと尻から太ももまでを叩くと、泣きじゃくる王子を膝から下ろした。
「これ、もう止められないの?いつまで続くの?」
王子は浴室の入り口で懇願するように涙を流したままの顔で殺し屋の腕を掴み見上げ、声を震わせながら言った。
尻が痛むのか腰を落とし気味にして、膝をすり合わせてもじもじしている。
「もう二度とあんなことしないから!!」
叫ぶように言うやいなや。
王子はあっ!と声を上げる。

ちょろろろろ・・・・・・・

すり合わせた膝の間から温かいものが流れ、浴室の床をつたい出した。
小さな音はやがて大きな水音に変わり、床を勢い良く叩いた。
「あうう・・・・」
王子は情けない声を上げるともう一度お仕置きを受けるために浴室を出ようとした。
殺し屋はその体を押し戻すとシャワーのコックをひねった。
そのまま床に流れたおしっこと王子の足、膝、そして尻をゆっくり洗い流す。
「お風呂の中だ。よしとしよう」
そう言ってすべすべの赤らんだ肌を手で撫でる。
王子はなすがままになり、返事も出来ずにしゃくり上げた。
こんなこと、一人でも出来るのになんて情けないことだろう。
目の端には、さっき汚したズボンが置かれているのが映る。
シャワーの湯気の間をくぐり抜けて漏らした自分のおしっこの臭いが鼻をついて来た。
そのせいで羞恥心が全身を一気に駆け巡る。

「お前が全部飲み干したんじゃなきゃあなあ・・・・・」
殺し屋はすっかりぐしゃぐしゃになてしまった髪をなでつけながら言った。
「お前はただおもらしをしてるだけのように思うかもしれないが、もし、水の飲めない状況でこうなったらどうする?最後に待ってるのは脱水症状を起こしての死だ。
俺は毒じゃないとは言ったが、そんな風にも使えるんだぞ?」
殺し屋の言葉はどこまでも優しかった。
「・・・・・もうちょっと頑張る・・・・」
王子は鼻をすすり上げると涙でべったべたになった顔をすすぎ、泣くのをぐっと堪えて殺し屋の体にもたれかかった。
そして居間に戻ると、全員に迷惑を掛けることについて謝った。


「嫌かもしれないけど、もうズボンを履くのは止めておこうか」
王子が謝り終えたところで、殺し屋が言った。
「洗濯物もかさむし、着替える方も大変だろうし。
みんなの服を借りれば下は十分隠れるから」
「でも・・・・・汚しちゃうよ?」
王子は不安げにみんなの顔を見回す。
「洗濯すれば問題ないだろ?」
「確かにズボンを毎回履き替えるのは大変だな」
殺し屋の提案に二人は自室に服を取りに戻る。
ソファの上にはあっという間に二人の服が積み上げられた。
「でも、この上で漏らすのは勘弁な」
積み上げられた服を手でポンポンと叩きながら同居人が言い、王子は悔し紛れにグーを突き出すが、そうすると羽織った服の裾が上がり、下着だけの下半身が見えてしまうので結局やり返すことが出来ない。
しかも、力んだせいだろうか。
ジュワッとした温もりを股間に感じたと思った途端、それがお尻まで伝わり・・・・・・・


「ああああああ・・・・・・」


omo02.jpg




王子の足元に小さな水溜りが出来る。
「も、漏らしちゃった・・・・・・」
王子は力なくその水溜まりの上にへたり込んだ。
一度体を離れたはずのおしっこがお尻の下でヌメヌメと不快に動き、下着越しにペッタリと張り付くのを感じながらも王子はしばらく立ち上がれずにいた。


さすがに夜も10時を回る頃には失禁は頻繁ではなくなって来たが
「どうする?」
全員が互いに顔を見合わせる。
朝までは少なくとも6時間から8時間。
少なくとも一回は漏らしてしまうであろうことは想像出来る。
「まあ、一回ならなんとかなるとして」
「三回、まで行くと寝るところがなくなるな」
「僕、おねしょしちゃうなんてやだあああ!」
王子は顔を真っ赤にして叫んだ。
そして、何回も叩かれたせいでヒリヒリ痛むお尻に手をやる。
最初は我慢していたが何度も濡らしては叩かれ、洗われるのですっかり敏感になり、耐えることが出来なくなってしまった。
過敏になったせいで叩かれてる最中に二、三度軽く漏らしてしまったほどだ。
「やだって言ったって散々・・・・・・」
「おねしょはまた違うの!!」
王子はさらに声を荒げる。
「今からオムツは用意出来ないしなあ・・・・・」
「オム・・・・・」
家主の言葉に王子は口を閉じた。
「今晩だけの我慢だ。
床にレジャーシートと厚手のタオルか毛布を敷いて寝てもらおう。
マットレスやベッドを汚すより良いだろう?」
「う、うん・・・・・・」
でも、おねしょは決定なんだよね・・・・・
王子はがっくりと首をうなだれた。


暗がりの中、お尻から背中への違和感に、もしかしてと王子は少し尻を持ち上げ手で毛布の上を撫でる。
案の定、濡れた感触が手の平に伝わった。
毛布を取り替えるために起き上がるも、お尻の下で嫌な感覚と音がする。
ため息をつき、濡れた毛布とシートを丸め、下着も借りたシャツも脱ぐ。
新しいシートと毛布を敷き、下着とシャツを着替えてまた横たわる。
眠いのですぐに意識が遠のく。
次に起きた時は上掛けの中からしゃあしゃあという音がしていた。
なんだ、これはおもらしじゃなくて放尿じゃないか・・・・・ぼんやりとした意識の中でそう思う。
お尻の周囲が濡れていることを考えると、すでに一回は漏らしてしまったようだ。
解き放たれたおしっこがどんどん広がるのが判ったが睡魔が勝ってどうにもならなかった。


それからどれくらいしたのかは判らない。
突然上掛けを剥がされたかと思うと仰向けの姿勢からうつ伏せに転がされたかと思うや否や、下着を下ろされ尻を一発叩かれた。
あまりの痛さに飛び起きると殺し屋が上掛けを掴んだままで見下ろしている。
「風邪引くぞ、いつまでそうしているんだ!」
「え?あ!」
王子はおねしょを見られていることに気づいてあたふたするがもう手遅れだ。
ぐいと腕を掴まれると引き上げられ立たされる。
足の下で毛布とシートの間に溜まったおしっこが変に動いて気持ち悪かった。
二回分のおねしょは相当激しかったのか床にまで水溜りを拡げている。
「ほら、早く着替えろ。まずシャワーだ!」
急かされ、慌てて自分の寝ていた場所を退いた王子は尿意を感じて
「その前にトイレ!」
と声を上げて駆け出した。
「え?」
「え?トイレ?」
声を上げた王子も、聞いていた殺し屋も驚いて立ち止まる。
尿意を感じるってことは?
喜びかけた王子だったが
「ああああああっ!」
彼の膀胱には限界が来ていた。
濡れた体でおねしょの毛布の上に転がって体が冷えたのだ。
既に濡れている下着の中央にじわっとしたものが拡がる。
まずい、と察した殺し屋は急いで王子が最初におねしょをしてしまった毛布を掴み、王子を抱えると咄嗟にその足の下に毛布を敷いた。
それと同時に王子は漏らした。
それがちょうど他の二人が居間にやって来た時で


「あああああああああああ!!!」

王子は再び声を上げたのだった。


体をさっぱりさせ、夜中に汚した毛布を片付けてもらい、着替えて朝食の席に着いた王子はすっかり拗ねてしまった。
そりゃあ昨日は何度もおもらしをしたが、目の前であんなに恥ずかしい光景を見られるところまではいかなかった。
「すげー音だったな」
と同居人はしげしげ眺めるし、家主はいらぬ幼い頃の話をしだすし最悪だ。
「まあまあ良いじゃないか、尿意を感じたってことはもう薬は抜けたんだし」
殺し屋の方は人の気も知らぬげに涼しい顔で言う。
みんなの記憶を消せたら良いのに!
王子は顔を真っ赤にして、ずっと俯いたままで朝食を取った。


あのね、子供扱いされてるみたいでイヤだったんだよ。
その日1日を無事に終え、学校から帰宅した王子は殺し屋の夕食の支度を手伝った後、居間のソファーでお茶を飲みながら言った。
「でも、子供だったよね・・・・・」
反抗してダメと言われたものをいじり、服用した挙句面倒も迷惑もかけた。
それなのに拗ねたりヒスを起こしたりした。
「もうしないよ」
王子は殺し屋の目をじっと見つめて言った。
「そうだな。
本当にもし毒だったら・・・・・赤っ恥くらいじゃあ済まないんだぞ?」
殺し屋はそう言うと、王子の髪を撫ぜ、その顔を胸に引き寄せた。
外ではこの家では類を見ないほどの洗濯物が陽射しの中ではためいていた。

ささやかなきっかけ


 きっかけは本当に些細な事だった。
 どっちが先に家に帰っただとか、宿題を終わらせただとか、より褒められただとか・・・・・・
 それが何かにつけての張り合いに発展し、何で競争するのかへと主旨が変わった。
 夏だったのがまずかった。
 どれくらい西瓜を食べられか。
 アイスをたくさん食べたのはどっちか。
 ジュースを何杯飲んだか。
 その結果がどうなるかなんて子供には及びも付かない。
 でも大人達には判っていたから僕と義姉の競り合いをくすくす笑って見ていた。
 大人達?
 義父とその友人だ。
 張り合っている相手は義父の最愛の娘で僕とは同い年だ。
 賢くて気が強くって簡単には折れないがとても優しい。
 それで僕はこの家で孤独を感じずに済んでいる。
 義父も優しい。
 優しいから賢いとは言え、まだ小学生の娘と養子の僕がくだらない張り合いの結果、しょっちゅうトイレに間に合わなくて服を汚してしまったりベッドを濡らしてしまったりしても怒らなかった。
 この家の方針は、なんてったって「子供のうちにしか出来ないことは楽しむべき」なのだから。
 僕たちはここ数日をお尻もシーツもびしょぼしょにしてがっかりした顔で、或はしょんぼりとした顔で目を覚まし、申し訳なさと恥ずかしい気持ちでいっぱいになりながら失敗の報告に行くのに大人達は思った通りだ、と笑うだけ。
 義父は「毎日君たちのトイレの失敗の為に働いているんじゃないんだけどね」と苦笑まじりに言いはするけれど叱りはしない。
 濡れたお尻でもじもじとしている僕たちに
「今度はどっちが大きいおねしょをしたかで競争する?それとも回数?」
 と言われれば負けず嫌いの彼女は今夜こそしない!と鼻息を荒くし、僕は自信もないのにその勢いに引きずられて「僕も負けない」と頬を膨らませる。
 でも大人達は結果が判っているのだ。
 頑張ってね〜〜と嘘くさい微笑みで答えたり、明日こそお義父さんは楽になれるんだね?って言ったり完全に面白がってる。
 そして大人達は正しい。
 翌朝には二人で涙で目を潤ませ、うなだれながら大人に報告しに行く羽目になる。
 パジャマくらい自分で替えられるけど濡れたベッドはどうしたらいいのか判らないんだから情けない限りだ。でも、それ以上に僕たちは競争に夢中になり、甘やかされてる事に少しばかりの快楽を覚えていた。


 この競争が終わったのは夏が終わったからではない。
 大人たちがもう止めなさいと言ったわけでもない。
「ばかばかしい事を楽しめるのは今だけ」を信条にしている義父が僕たちの失敗をせっせと写真に収めている事が判ったからだ。
 義父は器用で撮影だって巧い。
 劇的瞬間なんかそりゃあもうバッチリ。
 大人達はその劇的瞬間を眺めて可愛い可愛いの連呼だけど写された僕たちはたまらない。
 ぎゅうっと股間を押さえてるのだって恥ずかしいのにズボンに出来た染みから、股から滴る滴までクリアに写っているもの。
 足元に出来た水たまりに呆然とするだけの姿。
 あとちょっとでトイレだったのに直前で全部出してしまった瞬間。
 お尻に同じような丸い染みを作って一生懸命言い訳している二人。
 ぐっしょり濡れたベッド。
 手で前を押さえ大泣きしながら、漏らしてる姿。
 幼稚園児みたいに上から下までの着替えを手伝ってもらってる姿。
 抱っこして貰った途端に漏らしてしまったものもある。
 これだけでも充分恥ずかしいのにこれ以上の事があるのかと思うと僕たちは耐えられなかった。
 大人達は残念がったが僕たちは取り敢えず、平和に生きる事を選んだのだった。
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